「ジブリのヒロインっぽい」と松本穂香を評価。中川監督最新作『わたしは光をにぎっている』完成披露試写会
10月23日、スペースFS汐留(東京・新橋)にて、松本穂香主演『わたしは光をにぎっている』の完成披露試写会舞台挨拶が行われ、松本穂香(22)、渡辺大知(29)、徳永えり(31)、光石研(58)、中川龍太郎監督(29)が登壇。「肝が座っている」と言われることがあるという松本穂香は、監督の演出に対しても自身の感性を主張したということを明かした。
『わたしは光をにぎっている』は、『四月の永い夢』(17)で第39回モスクワ国際映画祭・国際映画批評家連盟賞を受賞した新鋭・中川龍太郎監督の最新作。
中川監督が「翔べない時代の魔女の宅急便」と語る本作では、特別な才能があるわけではないけれど、都会の中で居場所を見つけ、現代を生きる若者の姿を丁寧に描く。
都会の中で成長していく少女・“宮川澪”を演じる松本穂香は、出来上がった本編を観て「自分が出ている作品なのに、こんな風に泣いたのは初めてのことでした。この映画に出会えてよかったです。」と語っている。
舞台挨拶レポート
世界が認める若き才能・中川龍太郎が描く、銭湯を舞台にした「魔女の宅急便」
女優・松本穂香が都会の中で成長していく少女を演じる
変わっていく時代・町を遺したい
中川龍太郎監督
撮影は1年ほど前でそれからすでにロケ地になった場所のいくつかは閉店してしまったお店もあるんですけど、そういうものを残すためにこの映画を作って皆さんに観ていただけることをほんとに誇らしく思います。
– 今、監督がおっしゃられたように、区画整理、都市開発などで街がどんどん変わっていく中、変わっていく時代、そこに生きている人々を丁寧に描き出そうとされたきっかけはなんだったんですか?
中川龍太郎監督
僕はもともと多摩川沿いの登戸出身なんですけど、下町の感じでそんなに綺麗なところじゃなかったんですね。
でも、小さい頃から通ってたお店とかが、大人になってしばらくぶりに行ったら町ごとなくなっていたりして。そして箱みたいな家が林立していて、あ、これは僕の故郷でもなんでもないなと非常に傷ついたというのがこの映画を撮ろうと思ったきっかけです。
松本穂香は肝が座っている
– 松本さんが演じられた“宮川澪”は、東京に出てきた女性がいろんな人と出会って自分の居場所を見つけていくという役柄ですが、ご自身と共鳴するところはありましたか?
松本穂香(銭湯・伸光湯を手伝う宮川澪 役)
私も澪と同じように器用じゃなかったりするので、脚本を読みながら心に刺さってくるものがありました。中川監督はそういった部分もわかった上で私に演じさせてくれたのかな?と今は思っています。
中川龍太郎監督
松本さんが東京に出てこられた頃にたまたま知り合う機会があって、3年ぶりに会っみたらだいぶ変わってて、アレ?って(笑)東京に染まったかなって(笑)
でもほんとに大人になられて素晴らしいと思います。
– “澪”は口数が少ないですが、どんな女の子だと捉えてますか?
松本穂香
どこか甘えて生きてきたところもあったりして、しゃべらない、目を合わさないのか、察してもらおうとしたり。
パッと見は弱々しい人なのかなって思うけど、実は芯の強い部分がある人なのかなって思って演じてました。
– そこは松本さんと似ている点もありますか?
松本穂香
そうですね。意外と肝が座っているよねって言ってもらえることもあるので。悪い言い方をするとあんまり深く考えていないのかもしれない(笑)なんとかなるかなみたいな。頑張らないとなんとかならないんだけど、なんとかしなきゃ!という気持ちで生きています。
中川龍太郎監督
根っこにある強さが澪に似ていますね。撮影現場で僕が怒られましたからね(笑)澪について知ったような口で演出していたら、松本さんから『私が澪だから!』って(笑)
徳永えり
肝が据わっている!
中川監督自身を投影した役
– 渡辺さん演じる伸光湯の常連・緒方銀次役は、自主映画監督という設定ですが、これは中川監督自身を体現しているのでは?と感じましたが、そのあたりいかがですか?
中川龍太郎監督
そうです。大知くんは、音楽やったり監督やったり役者やったり、いろんな表現手段を持たれている方。そういう人にこの役をやってもらいたいと思いました。
まさに私自身を投影した役なので、あまりいい男だとおかしいし(笑)
渡辺大知(伸光湯の常連・緒方銀次 役)
ちょうどいい男ってことですか?(笑)
(会場爆笑)
渡辺大知
役柄としては中川監督を投影したようなキャラクターだけれど、そこに引っ張られず、自分ならではの銀次を演じようと思いました。でも出来上がりを見ると、節々に中川監督らしさが出てて(笑)
意識してなかったはずなのに中川監督に見える瞬間が意図せず繋がってしまいました。
緒方銀次は、無くなっていく町を映像に遺したいと思ってカメラを回すんですけど、それは中川監督の思いでもあったんだなって改めて思いました。変化していくものを遺せるのは、やっぱり映画の力、醍醐味のひとつだと思います。
– 試写などで、徳永さん、松本さん、渡辺さんの会話のシーンで観客から笑いが起こるという現象が起きるとか?
徳永えり(伸光湯の常連OL・島村美琴 役)
笑いを取るシーンじゃないので、そこでなぜ笑いが起こるのか不思議なんですけど、会話を受けてくれる松本さんや渡辺さんのリアクションがお上手だったからだと思います。そこが観客に届いたのかも。
渡辺大知
独特の空気が流れているシーンではありました。
電車でふらっと現場に
– もうひとりの主人公とも言える光石さんが演じられた三沢は、松本さんとの共演シーンも多かったですが、松本さんについて印象に残っていることはありますか?
光石研(伸光湯を切り盛りする三沢京介 役)
松本さんと二人で掃除するシーンは素の動きが出てしまうので、芝居として結構難しかったですね。それを二人でやれたのが楽しかっです。
松本さんって、電車でふらっと現場に来られるんですよ。家に帰っても役が抜けていないのではないかと思うくらいのそのまま感。衣装も着替えないでもそのままでいけちゃうんじゃないかなってくらい自然さがありました。
この作品は、飛躍できない時代の『魔女の宅急便』
– 本作にはスタジオジブリの鈴木敏夫氏や詩人の谷川俊太郎氏など、たくさんの方から激賞のコメントが寄せられています。たとえば鈴木敏夫氏は「この国も捨てたもんじゃない。こんなに美しい日本映画を作る若者がいる。」、谷川俊太郎氏は「見終わってから、この映画はいつ終わってもいいし、またいつ始まってもいいと思いました。物語よりもひとつひとつの場面に、日々の生の肌触りを感じたから。」とおっしゃってくれています。
(会場拍手)
中川龍太郎監督
この作品は、飛躍できない時代の『魔女の宅急便』にするという気持ちで作りました。現代は若い人が質素だし、消費や都市への憧れがなくなっています。そんな時代に、『魔女の宅急便』のように、澪が労働を通して誠実に生きて光を見つけていく…というのをコンセプトにしました。
– 中川監督は松本さんが演じた澪に『魔女の宅急便』のキキを重ねられてたってことですか?
中川龍太郎監督
(松本は)大枠でいうと、ジブリのヒロイン系だよね(笑)
松本穂香
喜んでいいんですかね?(笑)でもいい表現ですね(笑)
– 松本さんは、ここは残したいと思うような場所はありますか?
松本穂香
私はまだ思い入れのある場所はそんなになくって。私は家族とか友だちとホッとできる場所があればそれでいいなと思うので、そこさえ無くならなければ、どこでも大丈夫だなって思っています。
本作をご覧になられる方にメッセージ
松本穂香
今は辛いことや生きづらいことの多い世の中になってしまっているけれど、誰にでも居場所はあるんだとこの作品を通して思いました。いつそれが見つかるかわからないけれど、居場所というのは絶対にあります。そんな素敵な光が散りばめられている作品を最後まで楽しんでいただけたら嬉しいなと思います。
フォトギャラリー
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[取材・写真:Ichigen Kaneda]
映画『わたしは光をにぎっている』
【ストーリー】
宮川澪、20歳。ふるさとを出て、働き出した。
友達ができた。好きな人ができた。その街も消える、もう間もなく。
なんとなく東京へ出てきたが、仕事も人付き合いもうまくいかない澪。ある時から古い銭湯を手伝い始め、昔ながらの商店街の人たちとも交流するようになり、少しずつ都会の暮らしにも喜びを見出していく。だが、やっと見つけた居場所が、もうすぐなくなってしまうと知った澪は、「しゃんと終わらせる」決意をする──。「閉店します」の貼り紙、一夜で壊される建物、路地から消える子どもたちの声──今、日本は発展や再開発の名のもとに、大きく変わろうとしている。<失われてゆくもの>を、感謝を込めて丁寧に送り出すことで、前へ進もうとする澪は、現代に生きる私たちに大切なものが終わる時にどう向き合うかを、まっすぐな瞳で伝えてくれる。
出演:松本穂香 渡辺大知 徳永えり 吉村界人 忍成修吾/光石研/樫山文枝
脚本・監督:中川龍太郎 『四月の永い夢』 主題歌:カネコアヤノ「光の方へ」
脚本:末木はるみ 佐近圭太郎 脚本協力:石井将 角屋拓海 チーフプロデューサー:和田丈嗣 プロデューサー:藤村駿 木ノ内輝
製作:WIT STUDIO 制作:Tokyo New Cinema 配給:ファントム・フィルム
©2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
公式サイト:http://phantom-film.com/watashi_hikari/
11/15(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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