【インタビュー】川北監督×竹内ももこ×野島健矢 “ものづくり”に情熱をかける若者の思い
ものづくりの世界が、わたしの居場所でした。
大学の映画サークルに所属する襟加、萌花、祐介。その隣では進藤の所属する演劇サークルや、大槻の所属する音楽サークル等が活動している。
卒業を前に最後の映画製作をする3人だったが、モラトリアムの終わり、そして自分達の居場所が少しずつ離れていくのを感じ始め…。
映画『満月の夜には思い出して』は、“ものづくり”に情熱をかける若者たちの逡巡(しゅんじゅん)、葛藤を描いた作品。
川北ゆめき監督自身、大学3年の暮れ、周りが就職活動を始める時期に映画を撮る意味、ものを作る意味についてためらいを感じていた。
そんな時、シンガーソングライター大槻美奈の楽曲、ものづくりの姿勢に出会い、自身が救われた体験をしたという。大槻美奈に惚れ込んだ川北監督は、「僕が彼女の音楽に救われたように、観てくれた人に何かを残せる映画を作りたい」という強い思いから、MOOSIC LABに企画を持ち込んだ。
MOOSIC LABは、若手監督や俳優、ミュージシャンの登竜門的映画祭。MOOSIC LAB主宰の直井卓俊氏も「大槻美奈の曲が映画の中で響くのが観たい!」と思い、川北監督の情熱に賭けることにしたという。
そういった経緯で「MOOSIC LAB 2018」の長編部門に出品された本作だが、全音楽を担当した大槻美奈が、異例の「スペシャルメンション賞(才能の発見)」を受賞するなど好評を博した。そしてこのたび満を持して、東京、京都で6月より単独上映が決定した。
本記事では、川北ゆめき監督、そして同じく“ものづくり”に情熱を傾ける若いキャストの竹内ももこ(『21世紀の女の子』)、野島健矢(MV「室井雅也/A GIRL BY SEASIDE」主演)にインタビュー。学生映画と“人に見せるプロの映画”との大きな違いや、『満月の夜には思い出して』撮影当時の思い出、見どころについてたっぷりと語ってもらった。(3人のビデオメッセージもあり)
映画『満月の夜には思い出して』
カナザワ映画祭、TAMA NEW WAVEなどに入選の若手監督・川北ゆめきが、自身が惚れ込んだ天才シンガーソングライター・大槻美奈の楽曲を元に紡ぐ映画研究会の儚い青春群像でMOOSIC LAB参戦!
随所に織り込まれる大槻の演奏シーンは圧巻。
出演:時?襟加 竹内ももこ 野島健矢 進藤智美 大槻美奈 木村知貴
監督・脚本・編集 川北ゆめき
音楽・劇中歌:大槻美奈
撮影:近藤実佐輝|録音:浅野就将|スチール:飯田エリカ
製作:中央大学映画研究会
助監督:山下知夏|企画:直井卓俊|カラー|STEREO|75min
上映情報
シネマ・ロサ(東京・池袋)
2019年6月8日(土) – 6月21日(金)
出町座(京都)
2019年6月29日(土) – 7月5日(金)
インタビュー:“人に見せる映画”の難しさ
川北監督、竹内ももこさん、野島健矢さんからのビデオメッセージも到着!
撮影の思い出
真冬から春にかけての撮影
– 撮影はいつ頃でしたか?
川北ゆめき監督
今からぴったり一年半前くらいです。
(※本インタビューは2019年5月下旬)
竹内ももこ(萌花 役)
もうそんなに経つんですね。
川北監督
冬に撮る予定が春までずれ込んで、桜が背景に写り込んでしまってどうやって隠すか考えるのに苦労しました。
竹内ももこ
でも、おかげでお花見をすることができて楽しかった(笑)
野島健矢(祐介 役)
大槻美奈さんの撮影は真冬でしたよね。
(※楽曲提供している大槻美奈は、弾き語りシンガーとして劇中にも登場する)
川北監督
そう、息が白く映って。
竹内ももこ
大槻さんが寒がって「めっちゃ、いややー」って話していたのを思い出します。
見ているだけで寒さを感じました。
川北監督
寒かったけど、白い息が見えるのって好き(笑)
– 撮影日数は?
川北監督
撮影日数は、10日…13日くらいかな。日数的には少ないのですが、撮影期間が長かったです。
出演する女の子たちの髪形が変わってしまう問題がありました。
竹内ももこ
前髪を切っちゃったとか。パーマがもうかかっていないとかね。
川北監督
野島さんは、帽子をかぶっていて髪が隠れるので見た目の髪形が変わらないんですけど、女性の出演者は撮影期間が長くなるとお仕事の関係で髪形が変わったりするので、撮影時期が変わった時に髪形を同じにみせるのが大変でした。
野島健矢
3人のシーンは先に撮っちゃってたよね。
川北監督
映画の中の季節としては、冬から春ぐらいまでのイメージなんです。大学で言うと卒業に向かう頃ですね。
できれば冬の方が星がきれいに写るなとか、撮影の時に息が白く写るのがきれいだなって。
でも気が付くと春まで撮影していました。でも、春まで撮影が延びて結果オーライでしたね。寒すぎないし暑すぎないし(笑)
竹内ももこ
気温で困ることがなかった気がします。快適でした(笑)
川北監督
スチールだけ、あとから夏の撮影でしたね。
竹内ももこ
そっか、スチ-ルの撮影は夏かぁ
川北監督
そう。映画のフライヤーを撮影したときは暑かったのを覚えています。
長かった撮影準備期間と思い出の場所
– 撮影までの準備段階の期間は?
川北監督
撮影までの準備期間は長かったです。台本の読み合わせをずっとしていました。僕自身が悩んだ読み合わせの期間が長かったですね。
– 撮影場所の思い出とか、その場所を使いたかった理由は?
川北監督
撮影場所は、慣れ親しんだ場所である大学を使いました。特にサ-クル室は、在学中に過ごした場所でどうしても映画の中に入れたかったです。
また、演劇サークルが声出しの練習をする場所があるのですが、そこをすごいな思って見ていたので、映画のシーンに入れたいと思っていました。
海のシ-ンは江の島を使っているのですが、そこは、ももちゃん(竹内ももこ)も出演している大槻美奈さんの曲「アミュレット」のMVでも撮影した場所です。
大槻さんとは、そのMVを撮影したときの印象が強くて、また撮りたいと思ったんです。
竹内ももこ
「アミュレット」のMVと映画の江の島のシーン、私はどちらも同じ白いワンピースなんです。そこがエモいんです。
江の島の撮影、楽しかったです。あと、生しらす丼がとってもおいしかったです(笑)
監督が楽曲に惚れ込み、作品のきっかけにもなった“大槻美奈”
竹内ももこ
私は大槻さんと地元(京都)が一緒で、ご本人のことも知っていました。
「アミュレット」のMVを川北監督に撮影してもらった後に、また一緒になにか作りたいねって話をしていたんです。
それで川北監督が大槻さんと映画を撮るっていう話を耳にして、やりたい!って思いました。また、大槻さんといっしょに作品作りができる!って。
– 川北監督は、その楽曲ばかりではなく、大槻美奈さん御本人に求婚までしているとか?
(参考:『満月の夜には思い出して』(SPOTTED PRODUCTIONSラインナップ紹介サイト))
川北監督
はい。本当に求婚をしていました。大槻さんのことは、人として好きです。音楽も好きですし、ものづくりのスタンスも尊敬しています。
好きって言いすぎると引かれると思うので「結婚しよう」と言っています。そのほうが引かれますかね?(笑)
監督とふたりの出会い・キャスティングについて
– 川北監督と竹内さん、野島健矢さんの出会いはいつ?どこで?
川北監督
僕とももちゃんは、大学のサークルのOBの知り合いの人が映画を撮りたい作品で主演だったんです。その現場に手伝いに行って初めて会いました。
竹内ももこ
ありましたね。あの映画、どうなったんだろう…
川北監督
完成していないんですよね(苦笑)まだ、グループLINEありますよ(笑)
撮影は終わったけど、編集は終わっていないという。確か二泊三日で撮影しましたね。
竹内ももこ
私、鎌倉まで通っていたはずですけど、当時どういう生活をしていたか、ストーリーさえも思い出せない…。
川北監督
僕が大学3年の夏だから…たぶん3年前くらいかな。その時に会っていて、でもその時は話していなくて。きちんと話したのはそのあとですね。(大槻美奈の)MVの撮影があって、その時に話したのかな。
– キャスト選出にあたってオーディションはありましたか?
竹内ももこ、野島健矢
オ-ディションはなかったです。
野島健矢
僕の監督との出会いはいつだったかな…。
川北監督
野島さんは僕が大学4年の時…2年前くらいです。
首都圏映画サークル連合の上映会があったんです。学生映画サ-クルの集まりのようなもので、そのゲストで野島さんが来ていて、そこで会いました。
野島健矢
作品を川北監督と一緒に観せてもらって、すごく良くて、打ち上げに参加させてもらって、最後にちょっとだけ話して、僕が早く帰らなければいけなかったので、LINEだけ交換して「後日、お仕事をいっしょにしましょう」って話をしていて、今回につながりました。お芝居は僕が出ている他の作品を観てくださっています。
川北監督
出会ってから1年くらい、映画祭で野島さんをみる機会があって、主演のものから脇を固める役なども。
野島さんの姿を観るたびに、LINEで「見たよ!」ってメッセージをおくっていました。
演劇と映画の違い
– 本作の劇中、映画と演劇の違いについて語られるシーンがあります。 演劇と映画(映像)との違いはどのように考えますか?
野島健矢
僕は演劇の経験があります。自分にとって主軸ではなかったんですけど、お芝居を学ぶとなった時に何事も挑戦だなと思って、大学時代に4回くらいかな。一年に一本くらいの間隔で、大学1年生の時を除いて、2、3、4年生の時に演劇に取り組んで出演しています。
卒業して、一度、京都の八幡にある八幡宮に特設ステージをつくって野外で演劇をやりました。雨が降ってもそのままお芝居を続けたり、コンテンポラリーっぽいものでした。ジャンルは幅広くって、不条理なものや会話劇まで。
竹内ももこ
私は演劇の経験はないですね。最近はやってみたくて、オーディションを受けています。
演劇の舞台はやってみたいですけど、怖い気持ちがあります。
野島健矢
舞台は怖いですよ。舞台に出る一秒前まで怖いです。
竹内ももこ
怖いと思うけど楽しそうだなって思います。やってみたいです。
人との関わり方が、映像とは違う感じがしますね。ガッと掴みあうような感覚と、撮影が終わったら、即、解散!みたいなイメージがあります。
野島健矢
映像は、一日で本番をむかえて、一日で千秋楽をむかえるイメージです。
舞台は本番までにリハーサルや稽古に長い時間が設けられているけど、映像はリハーサルはありますが、動きの確認とセリフの読みだけで、読みだけの時は相手の本気さがわからない部分があるのですが、本番になると相手が次にどう動くのかっていうような掛け合いがあって闘っている感じが演劇と同じで面白いです。
竹内ももこ
そんなに数多く観ているわけではないのですが舞台を観るたびに、演劇・舞台に出てみたいと思います。
以前観た舞台が刺激的だったので、こういう劇・台本がやりたいっていうのがあります。
野島健矢
竹内さんが出る演劇・舞台、観てみたいなぁ。
– オファーが来るのでは?
竹内ももこ
オファーが来たら嬉しいですね。でも、オファーよりもオーディションにでて勝ち取りたいです!初めての舞台の出演には。
学生映画と“人に見せるプロの映画”との違い
– 本作では、大学の映画サークルのことが描かれていますが、監督ご自身のご経験もふまえて、あらためて“学生映画”とは?
川北監督
学生映画、特に、映画サークルが撮っているものは、世間一般にいわれる「インディーズ映画」や「映画学科が撮っている映画」とは違っていると思います。
サークルの全員が映画を撮りたくて撮るのではなくて、“映画を撮りたい人”が一部にいて、その人に付き合わされるというか、「お前がやるなら、手伝うよ」というのが、映画サ-クルが撮る学生映画だと思っています。
映画サ-クルがもつ、独特の環境がないとできない映画があると思っていて、『満月の夜には思い出して』にも、その表現ができていたらいいなと思います。
– 本作は、学生の方々以外に映像製作のプロの方々も参加されていますが、プロとの仕事はいかがでしたか?
川北監督
大津研さん(技術補佐)、飯田エリカさん(スチール)、フライヤーのデザイナーさん、そしてMOOSIC LABをプロデュースされている直井卓俊さん。こういった第一線で活躍するプロ、クリエーターの方々と関わってみて、今までやってきた自分の塩梅とはやり方が違くて、それがとても楽しかったです。
それは、“友達感覚”ではなくて、“きちんとした仕事相手として向き合ってくれる”という点です。
キャストの人たちも、半数以上が学生ではなく、プロの役者に出演いただき、撮らせてもらえました。
作って終わりじゃなく、作って他の人に観せるということを意識して作る点に“作ることの難しさ”を感じました。
そう感じつつ、でも、今回の作品が学生のサ-クル映画に沿ったものでもあり、そこがより一層難しいと思いました。
演出・演技の難しさ
– 本作ではテンションを抑え気味にした印象を受けましたが、そういった演出はありましたか?
竹内ももこ
祐介の家で長セリフを言うところがあって、そこで指示されたのが“感情を入れずに演技をしてください。”でした。
その時に、「うわぁ、難しい!」と思って自分なりに表現してみたんです。
でも、それはいうなれば“棒読み”じゃないですけど、頭の中で思い出しながら読む感じ、思い出したことをただ口に出す感じのイメージで、その時はOKをもらったんです。
そのあと、映画が公開されてから、観てくださった方がSNSに書かれた評価に“セリフが棒読み過ぎてヤバイ”っていうのを見つけて、そんな風に伝わってしまったんだって、辛さを感じました。
感情を出すよりも、感情を秘めて、全部のトーンをおさえて演じるほうが難しいし、まだその技術を持ち合わせていなかったので、“あぁ、そういうふうに伝わってしまって悲しいな”と思いました。
セリフもすごく素敵だったので、観てくださった方に伝えきることができなかったことが心残りです。
幼少期の星の思い出。そしてやっぱり大槻美奈の曲が好き。
– 本作には「音楽、星、映画」といったものが詰まっていますが、監督の好きなものを詰め込んだ感じですか?
川北監督
僕が幼稚園の時に、母と一緒に父の職場に迎えに行って、星を見ていた印象が強く残っています。
でも、そのあと「星を長いこと見ることがなかったな」と。
そこで、大槻美奈さんの「宇宙」という曲を聴いて、夜、帰宅途中に星を見ながら帰るようになりました。「やっぱり、綺麗だなって」。
この曲を聴いたあとは星の見え方が全然違っていて、あの曲に出会えてよかったなと思っています。
出身は、横浜市(戸塚区)で、子供の頃だとしても、本来はそんなに星は見えなかったと思うのですが、思い出の中では星が見えているんです。
映画の中の満天の星空は、その思い出の映像なんだと思います。
“川北フィルター”を通すと見えるんですよって(笑)
竹内ももこ
星が見えてよかったね。
『満月の夜には思い出して』の見どころ
川北監督
この作品は、“ものづくり”をしている若者に観てほしい映画です。
こんなことを言うと、若い人以外の世代が観てくれなくなってしまうかもしれませんが(苦笑)
竹内ももこ
このフライヤーの写真を見て、メインキャストが野原で寝そべって過ごしているような関係性を期待して映画を観に行ってほしいです。この映画はそのイメージと全然違うと思うので。
このフライヤーだけみると、“仲がいいな”とか“青春してるっぽいな”とか楽しそうに見えますが、複雑なものが渦巻いている作品なので、そのギャップを楽しんでほしい。
野島健矢
この作品は、みんなの通過点だということを今、振り返って思っています。
学生最後の卒業までの時期、“あの頃はこういう人たちがいたなぁ”と一緒にいた人たちをふと思い出す。
そのことが、良い/悪いっていうわけではないんですけども。
あの時、繋がっていたんだなっていうのを思い出していただけるの作品。そういう自分に浸ってもいいのかなと思います。
[インタビュー・写真:Ichigen Kaneda/記事・写真・動画:Jun Sakurakoji]
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