【インタビュー】比嘉愛未「親が応援してくれないと思っていた当時の自分自身と重なって、演じている間苦しかった」
映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』(10/6公開)で、三浦翔平とW主演を務める比嘉愛未。自分自身と重なって苦しかったという本作で演じた役柄のことや、本作の撮影エピソードについて話を聞いた。
本作の軸になるのは「相続」と「家族」。少子高齢化社会と言われる今だからこそ、向き合うべき制度である「成年後見制度」(2000年に発足)の問題を描きつつ、《時価6憶円》の値打ちがある伝説の真珠を巡る、ある家族の大騒動を軸に進むのだが、、、予想外の連続に思わず「学び」、「笑い」、「涙する」真珠を巡るある家族の大騒動を描く。
比嘉愛未 インタビュー&撮り下ろしフォト
■自分自身と重なって、演じている間苦しかった
‐比嘉さんがドラマデビューとなったNHK朝ドラ「どんど晴れ」(2007)の脚本家でもある小松江里子さんの脚本を最初に読んだ時の印象は?
比嘉愛未(大亀遥海/おおがめ はるみ 役)
小松さんは家族愛・家族の絆を丁寧に描かれる方なので、今回も小松さんらしい部分と、逆に予想外のユーモラスさもある、それらの強弱が面白い作品になっているなと感じました。これを映像として具現化したらどういうものになるんだろう?って驚きもあり、頑張ろうと思いました。
この作品のようにいろんなテーマ性が盛り込まれたものは、ある意味役者としては難しいんです。それらをどう見せていくか?という私たちの技量にもかかっています。
でも、15年ぶりにお仕事でご一緒させていただいた小松さんへの恩返しの意味も込めて、そして役者として、表現者として一緒にものを作るという目線でドシっと居られたらなと頑張りました。
‐演じられた“遥海”のキャラクターをどう捉えて演じられましたか?
比嘉愛未
遥海を演じているとき、ずっと苦しかったんです。“遥海”は義理の父(演:三浦友和)への確執を抱えていて、心の壁を作っています。私も高校生のとき、当時芸能のお仕事をやりたいので上京したいという想いを両親に大反対されたんです。そういう親との衝突の経験があるから、“遥海”の気持ちがとてもよくわかったんです。
“遥海”は、義父のせいで母親が亡くなったと思い込んでいますし、私も「なぜ娘の夢を応援してくれないんだ?」と、親に対して「なぜ?」「どうして?」というわだかまりがあるんです。
私の場合は、数年前にそういった親への心の壁が崩れることがあったんです。あの時上京を反対したのは、娘を心配する親の愛なんだなって、親の気持ちを理解できるようになりました。時間がかかりましたけれど、大人になってお互いが許しあえたんです。お互いを許しあえたことでより親子関係が深まったと感じています。それは、親と子という関係もそうですし、一人の成人した大人同士の関係という意味でも。
そういう自分の経験があったので、遥海を演じていると、過去の自分のモヤモヤとした親への想いを思い出して、引っ張り出されてしまう感覚があったんです。
それはそうですよね。心と身体を使ってお芝居をするわけですから、(役と自分との)同じ部分が共鳴し合うわけです。
実際、遥海は物語の後半まで笑わないし、自分の気持ちもあまり語りません。今回は主演なのに、あまりしゃべらないという(笑)そういう中で、心の機微をどう表現するのかというのは難しかった点です。
‐遥海と同じく、城島龍之介(演:三浦翔平)の心の変化も印象的でした。
比嘉愛未
遥海は、自分の心の中にある壁に向き合うことによって、自分を取り戻していきますが、それは、城島龍之介(演:三浦翔平)も同じなんです。お互いが似ているからこそ、今回の騒動をきっかけに自分自身に向き合っていきます。
田中監督がおっしゃっていたのは、この作品のテーマは「許しと愛」だと。どんな人間関係もちゃんと向き合うことで、絆が芽生えて愛情が育まれていく。そのためにはまず、相手に対して心を開くこと。シンプルなんだけどとても深いテーマが、あとからジワジワと心に伝わってくる作品です。
■もう罰ゲームかっていう・・・
‐劇中、遥海の高校生時代を振り返るシーンの中で、比嘉さんが学生服を着られてますね。
比嘉愛未
これ、最初は大反対しましたし、私が着たいって言ったんじゃないですからね(笑)
このシーンは別の方がキャスティングされると思っていたんです。そうしたら監督が「遥海にとってとても大切なシーンだから、是非、比嘉さんに演じてほしい。」って。
もう罰ゲームかっていうぐらいの感じで(笑)
‐でもぜんぜん・・・
比嘉愛未
あ、いいんです、いいんです、そういうのは!
‐(笑)
比嘉愛未
ありがとうございます(笑)
■後輩たちにそっと寄り添える役者になりたい
‐三浦翔平さんとの共演、そして父役の三浦友和さんとの共演で印象に残っていることは?
比嘉愛未
翔平くんとは、同じ葛藤を持った役同士だからこその対立を保つための距離感は保っていました。馴れ合いにならないように。そこはとても助かりました。
そして、(父役の)三浦友和さんも最初の頃は距離を置いてくださっていました。撮影は1ヶ月間、伊勢志摩に行きっぱなしだったんですが、後半になってくると、一緒に御飯に連れていってくださって、それこそ、息子さん(三浦貴大)と私は何度も共演しているので、そのお話をしたりとか、いろんなお話をざっくばらんにさせてもらいました。大先輩なんですけれど、緊張させないフラット方なので、一緒にいて心地良い時間でした。
比嘉愛未
友和さんとのお芝居で特に印象に残っているのは、終盤の大事なシーンで私の気持ちが高ぶってしまって手が震えてしまったとき、ギュッと手を握ってくれたこと。言葉ではなく、心と心で「大変なシーンをよく頑張ったな」と包んでくれた感じがしました。父と娘としての関係もそうだし、役者の先輩・後輩の関係としても、どちらもの愛を感じました。
その時の手の温もりが忘れられなくて、マネージャーさんにもずっとその感動を伝えていました。私もこれからは、後輩の役者さんたちに、そっと手を差し伸べるとか、寄り添える人になりたいと強く思いました。
‐本作で良い味を出されている浅利陽介さんとの共演はいかがでしたか?
比嘉愛未
浅利さんとはこれまでたくさんの作品で共演させてもらっているんですが、彼が現場にいたら安心ですし楽しいです。彼のユーモアセンスとお芝居力って、人の土台を上げてくれますし、信頼関係もあって、私も自分らしく居られます。
‐そして、デコボコ3姉妹役としての、松岡依都美(まつおか いずみ)さん、山﨑静代(南海キャンディーズ)さんとの共演はいかがでしたか?
比嘉愛未
お姉ちゃんたちはとても面白いですよね(笑)私の役はお姉ちゃんたちともいがみ合うシーンが多かったですが、撮影の合間では他愛もない話をしたりとか、彼女たちの存在感に癒やされていました。
■情報を得ることは自分を守ることなんだ
‐伊勢志摩でのロケはいかがでしたか?
比嘉愛未
昨年(2022年)の4月の一ヶ月間、滞在したんですが、とてもいい季節で、そして何より景色が素晴らしくて、ご飯も美味しいんです。沖縄出身の私からすると、小さな島々が連なっている、英虞湾の海は、静かなる海という印象。海と山と人々の生活がバランス良く共存していて、とても素晴らしいなと思いました。ずっと満たされていました。
特に景色については、田中監督がこだわっていました。私が田中監督の好きなところは、静かな景色の映像の中にも動きがあることです。時間帯による変化だとか。『利休にたずねよ』(2013)もそうですし。なので、この作品は“自然”も大事な出演者だと監督は思っていらっしゃったと思います。
‐この作品は真珠がひとつのキーアイテムになっていますが、真珠の魅力について改めて感じられたことはありますか?
比嘉愛未
6月の誕生石がパールなのもあって、私、もともと好きなジュエリーがパールなので、すごく馴染みがあります。
‐本作のテーマのひとつ「成年後見制度」は、メリットとデメリット両面があるようですが、思われたことがあればお聞かせください。
比嘉愛未
この制度ができたことを知ってはいましたけれど、正直、自分にはまだまだ関係ないと思っていました。でも他人事だと思っちゃいけないなと思いました。一人一人がそのことをちゃんと知ることで、デメリットからくる問題点も浮き彫りになって、事前に解決する道が出てきます。知らないでいると、この制度を悪用する人たちに利用されてしまうこともある。
正義である弁護士がそういうことをやってしまう世の中は絶対にダメだし、やっぱり善悪はきっちりするべきだと改めて思ったので、この作品を通して「成年後見制度」のことを知ってもらうのも大きな一歩だと思います。
私自身ももっと勉強しなきゃと。情報を得ることは自分を守ることなんだと思いました。
‐この作品は「許しと愛」「美しい景色」「成年後見制度」といくつかのテーマがありますが、最後に、これからご覧になる方々へ、改めて本作の見どころ含めたPRメッセージをお願いします。
比嘉愛未
田中監督がおっしゃった言葉に尽きると思います。私も思っていますけれど、「成年後見制度」とそれにまつわる遺産問題、親子問題と考えると難しくなってしまいますが、それら全部を含めて考えると、何があってもちゃんと許し合えれば、その先には分かり合える愛情が生まれる。そうすれば、いろんな問題が解決していくと私は信じています。
どちらかが固まって頑固になっちゃうのではなく、お互いが素直になって許し合う心を持てば、未来はより明るくなるんじゃないかなと。そういうメッセージがこの作品には込められているので、観た方が何かを受け取ってもらえたらと思いますし、そしてきっと、親に会いたくなったり、子に会いたくなったりすると思います。その時の自分の素直な気持ちのままに行動されてみてはいかがでしょうか?
この作品が、“遥海”と同じような悩みを抱えた人の背中をポンって押せる励みになれば嬉しいなって思います。
比嘉愛未(ひがまなみ)プロフィール
1986年6月14日生まれ、沖縄県出身。
2005年映画『ニライカナイからの手紙』で女優デビュー。07年NHK連続テレビ小説「どんど晴れ」でヒロインを演じる。主な出演作に、映画『カノン』(16)『先生!、、、好きになってもいいですか?』(17)『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18)「大綱引の恋」(21)「吟ずる者たち」(21)、ドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズ(08~17/CX)、大河ドラマ「天地人」(09/NHK)、「DOCTORS~最強の名医~」シリーズ(11~23/EX)、「TWO WEEKS」(19/CX)、「レンタルなんもしない人」(20/TX)などがある。
近年では「にぶんのいち夫婦」(21/TX)、「推しの王子様」(21)で主演を務め、「日本沈没-希望のひと-」(21/TBS)「純愛ディソナンス」(22/CX)、「作りたい女と食べたい女」(22/NHK)、「大病院占拠」(23/NTV)、「ケイジとケンジ、時々ハンジ。」(23/EX)に出演。
■撮り下ろしフォトギャラリー
[インタビュー・写真:三平准太郎]
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映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』
《INTRODUCTION》
本作の軸になるのは「相続」と「家族」。少子高齢化社会と言われる今だからこそ、向き合うべき制度である「成年後見制度」(2000年に発足)の問題を描きつつ、《時価6億円》の値打ちがある伝説の真珠を巡る、ある家族の大騒動を軸に進むのだ が、、、予想外の連続に思わず「学び」、「笑い」、「涙する」真珠を巡るある家族の大騒動を描く。
ダブル主演を務めるのは、テレビドラマ・映画・舞台と幅広く活躍する比嘉愛未と三浦翔平。
比嘉は三重県伊勢志摩で真珠の養殖業を営む両親をもつ三人姉妹の三女・大亀遥海を、三浦翔平は認知症の疑いがある遥海の父親の成年後見人として大亀家に関わる弁護士・城島龍之介を演じている。
他キャストには三人姉妹の父親・大亀仙太郎を三浦友和、母親の満代を石野真子、大亀家の長女・珠子を松岡依都美、次女・浜子を山﨑静代、弁護士の井坂を小手伸也、遥海の幼馴染・雄太を浅利陽介、ブローカーの金増を田中要次といった個性豊かな俳優陣が脇を固め、物語に深みを与えている。
メガホンを取るのは『利休にたずねよ』(13)、『海難1890』(15)、『天外者』(20)などで知られる田中光敏監督。『利休にたずねよ』、『海難1890』、『天外者』でタッグを組んだ脚本家の小松江里子と共に、“学びあり”“笑いあり”“涙あり”のハートフル・エンターテイメント映画を完成させた。
《STORY》
家業の銭湯を継ぎ、夫の悟とともに順風満帆な日々を送るかなえ。しかし突然、悟が失踪する。途方に暮れていたかなえだったが、なんとか一時休業していた銭湯を再開させる。数日後、堀と名乗る謎の男が、銭湯組合の紹介を通じて「働きたい」とやって来る。
その日から、住み込みで働くことになった堀とかなえの不思議な共同生活が始まる。
友人・菅野から紹介された胡散臭い探偵・山崎とともに期間限定で悟を捜しはじめたかなえは、悟の知られざる事実を次々と知ることに。それでも、堀と過ごす心地よい時間の中で、穏やかな日常を取り戻しつつあったかなえ。
だが、あることをきっかけに、悟、堀、そして、かなえ自身も閉ざしていた、心の奥底に沈めていた想いが、徐々に浮かび上がってくる。それぞれの心の底流(アンダーカレント)が交じりあったその先に訪れるものとはー。
出演:比嘉愛未 三浦翔平
浅利陽介 小手伸也 山崎静代(南海キャンディーズ) 松岡依都 美田中要次 デヴィ夫人 内海崇(ミルクボーイ) DRAGONGATE 石野真子 三浦友和
監督:田中光敏
脚本:小松江里子
主題歌:ビッケブランカ「Bitter」(avex trax)
配給:イオンエンターテイメント、ギグリーボックス
🄫2022「法定相続人」製作委員会
公式サイト:https://oyanookane-movie.com/
2023年10月6日(金)より シネマート新宿、イオンシネマほか全国公開
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