河邉徹(WEAVER)

【WEAVER・河邉徹インタビュー】音楽業界の“リアル”な視点で今の時勢を深く描き出す小説「僕らは風に吹かれて」

スリーピース・ピアノロックバンドWEAVERのドラマーとして、そして2018年に小説家デビューも果たした河邉徹。彼にとって4作目となる小説「僕らは風に吹かれて」が発売1週間で重版になるなど評判を呼んでいる。その河邉に本作に込めた思いを伺った。

主人公はファッション系のインスタグラマーとして活動する湊(みなと)。彼が、天才的なボーカリストである蓮(れん)に誘われ、蓮が率いるインディーズバンド「ノベルコード」に参加するところから物語が始まる。すでにメジャーデビューも視野に捉えているノベルコードは、蓮の思惑通り音楽シーンを駆け上がるのか。バンドの物語と、その状況に翻弄される湊の物語を、昨今の「コロナ禍」をキーワードにして交錯させて描かれる。

本作は、河邉にとって4作目にして、初めて、音楽・バンドについてをテーマにした小説であり、コロナ禍の影響で、河邉自身も思うようにバンド活動ができなくなった中で書き上げた渾身の一作だ。
作品内でも、コロナ禍、SNS全盛による社会的影響、音楽の聴かれた方の急激な変化など、時世を思わせるエピソードが盛り込まれており、今だからこそ書き上げることができた作品であり、その点では、今だからこそ読むことに大きな意味があるとも言える。
ただ、時勢に関係なく、人と人との繋がりについて心に響く物語になっていることと、アマチュアバンドがメジャーデビューするプロセスにおいて、単なる夢物語だけではない現実的なことも描かれており、バンド活動をする河邉だからこそ書けた、とても“リアル”な音楽的な観点からも楽しめる内容となっている。

なお、本作の印税、売り上げの一部は新型コロナウイルス対策で活躍する方々を支援する『新型コロナウイルス緊急支援募金』に寄付される。

河邉徹インタビュー

河邉徹(WEAVER)

河邉徹(WEAVER)

■不安の中、僕にできることは?

-河邉さんの4作目となる「僕らは風に吹かれて」は、今のコロナ禍の状況も含めて、まさに今読むべき小説だと感じましたが、本作を書こうと思われたきっかけを教えてください。

河邉徹
まさにコロナ禍のことがあります。僕たちWEAVERは普段はツアーなどのライブ活動をしてますが、2020年春に緊急事態宣言が発出されて、そうしたことすべてが中止になっていき、家にいて、これからいったいどうなっていくんだろう?と、多くのミュージシャンが抱えていた不安を、僕も同じく抱えていました。
そんな中で自分にできることってなんだろうと考えた時に、小説を書くことだと思いました。僕は2018年から小説家としてもデビューしているのですが、今の状況を踏まえて、そして、これまで書いたことがなかった音楽業界のことを含めて言葉にしていこうとしました。

■アートは“不要不急”?

-本作執筆のきっかけにコロナ禍があるということですが、河邉さんは“不要不急”という言葉をどう捉えられてますか?

河邉徹
もちろん嬉しい言葉ではありません。そういう言葉を貼られることで、自分たちが表現してきたことの本当の価値について考えるタイミングになりました。
改めて、「自分たちが担っている役割はなんなんだろうか?」と。「音楽が無くても人は生きていける。」それはわかっていたけれど、それが現実になって、要らないよねと言われている状況に、これから一体どうなっていくんだろう?と、とても不安になりましたし、それは今現在も続いています。
今までだったら、誰かに誘われてライブに来るという人がいたかもしれない。でも今は、本当に興味のある人しか会場に来ないと思います。それが、コロナが収束して世の中がすべて戻った時でも、その状況だけは続くんじゃないかとか、そういう不安もあります。

-衣食住という狭い観点では、音楽含むアートは、“不要不急”なのかもしれませんが、人は“精神”“心”の充足も生きる上で必須だと言う人もいます。その点については、表現者のお立場のひとりとして、なにかメッセージはありますか?

河邉徹
僕らは物理的に誰かの暮らしを良くすることはできないわけです。だけど、最近よく思うのは、人は、思い出という、誰かと一緒に過ごした時間や、なにか嬉しいこと、そうした時間が、今すぐは効力を発揮しないかもしれないけど、1年後、2年後、もしかしたら10年後のある時に、その瞬間のことを思い出して、それが力になることがある。そういう思い出があるから今日も生きていける、明日も生きていける、ということがあると思うんです。僕の場合はそれが創作に繋がることもありますし。
音楽含む、芸術と呼ばれる表現することの仕事は、そういうことを作り出す役割を担っていると思うんです。たしかに“不要不急”という言葉はその通りで、今、目の前のことだけを見るなら本当に必要ないのかもしれない。でも人生の長いスパンで、10年後とか20年後とかに、今の空白があったことによって、生きる力が湧かない瞬間がどこかできてしまうんじゃないかっていう不安があるんです。
今、この状況が1年以上続いていますけど、これがもっと長く続いていくと、どこかで乗り物が燃料を切らすかのように、急に動けなくなるようなことが起こってしまうんじゃないかなっていう不安です。

■ミュージシャンがメジャーデビューする過程のリアル

-本書では、アマチュアミュージシャンがプロへの道を歩く過程が、良いことも悪いことも、人間関係含めてとてもリアルに書かれていると感じました。これらは、河邉さんの実体験に基づくところもあるのでしょうか?

河邉徹
そうですね。ずっと音楽業界にいて、僕自身もアマチュアバンドからメジャーデビューしたので、その過程は、取材だけでは書ききれないような実体験をベース書いています。もちろん、小説なので、フィクションの部分はありますけど、自分たちの経験を基に書いています。なのでそうした意味でリアリティさはあると思います。

-主人公・湊(みなと)と、恋人・茉由(まゆ)との関係性の変化がとてもリアルに感じました。この関係は、ある意味、インディーズ時代からアーティストを応援しているファンと、そのアーティストがメジャーデビューを果たし、どんどん大きくなっていこうとする時の一部ファン心理も彷彿とさせました。河邉さんは、ミュージシャンの立場としてこのような実体験はありますか?

河邉徹
僕らアーティストはデビューする時だけじゃなくて、音楽活動していく中で、例えば音楽性が少し変わるとか、サウンドが変わるとか、そういうことはあると思います。そうした時にそれまでずっと応援してきた方たちがギャップに戸惑うというのはあると思いますし、WEAVERでもおそらくこれまでにあったと思います。
アーティストとしての僕の視点ですけれども、応援してくれてる方の気持ちは近い場所で感じているので、湊と茉由の関係性については関連付けて考えてませんでしたが、そういう側面もあるかもしれませんね。

-ミュージシャンとしてメジャーデビューというのは、一見、華やかな世界に思いますし、特に若い子たちは夢の世界と思っているかもしれませんが、本作では、決して華やかだけじゃないリアリティのある人間関係が描かれていて、惹かれました。

河邉徹
ありがとうございます。

-小説には、S-Records社長・首藤健一が登場し、タイアップなどマネジメント面でもノベルコード(主人公が所属するバンド)にとって力強い存在として描かれています。実際、今の日本のミュージックシーンで、インディーズでやることと、メジャーでやること、それぞれのメリット、デメリットはどのように感じられてますか?

河邉徹
そこの垣根は無くなってきてるんじゃないかなと思います。というのは、メジャーレコード会社と呼ばれるような大きなレコード会社に所属しなくても、自分たちでレコーディングするという作業自体のハードルが低くなってきてるからです。環境も技術も昔よりすごく進歩しているし、たとえば生の楽器を録音しなくてもそれに近い音をパソコンの中だけで作れる時代なので、生楽器にこだわらなければ一曲作るのにかかるコストは下がってきています。
そして、レコーディングだけではなく、(作った音楽を)世に出す方法も進化しています。僕らが高校生や大学生の頃はそういう手段が限られていましたけど、今はYouTubeはもちろん、サブスクも自分で載せることができるので、今の時代は必ずしも大きなレコード会社でなければ多くの人に知ってもらえないということはないのだと思います

-本書に登場するノベルコードも、メジャーデビューのタイミングでドラマ主題歌のタイアップをするかどうかという描写がありますが、今の時代、曲のヒット要件として、TV番組やCMタイアップとはどれくらい重要でしょうか?

河邉徹
さっき言ったように発信する方法が増えているので、必ずしもタイアップが必要じゃないという時代になりつつはありますが、ただ、これはいろんな意見があって、ひとことでは言えません。何を持ってヒットというか、というところもあります。テレビ番組に出られることなのか、TikTokでバズることなのか、など。ただそれでも、「世の中の多くの人が知っているアーティスト」を頭に思い浮かべれば、そのヒット曲の多くにタイアップがついていることも事実です。
小説では、コロナ禍の影響でタイアップの話が延期になるシーンを書きました。音楽業界だけじゃないかもしれませんが、まだ誰も今のコロナの状況に対する有効な打開策を見いだせてないんですよね。そのリアリティも、本書では描きました。

-無観客のオンライン配信ライブという手段もありますが、それは完全な有効手段にはならないと。

河邉徹
100%の代替手段にはならないという意味で、そうです。もちろん地方に住んでいて観に行けなかった東京の公演を、どこにいても観ることができるという利点はありますが、やはり、チケットを買って、ライブ当日まで思いを馳せてワクワクし続け、会場まで足を運ぶ。これはさっき言った“思い出”に繋がりますけど、当日や前日などギリギリに購入して家から観る配信ライブと、やっぱり心に残るものが違うと思います。

-あと、そのライブ空間を皆で共有する、体験するという点も違いますよね。

河邉徹
まさにそうですね。

■フィクションの中のリアリティ

-小説の中でリアルな描写だなと感じたことはいくつかあって、例えば路上ライブシーン。演奏する側の心理がとてもよくわかる描写がありましたが、河邉さんご自身は路上ライブのご経験はありますか?

河邉徹
経験あります。僕は兵庫県神戸市出身で、僕の所属しているバンドWEAVERでも、神戸のポートタワーが見えるところなどで路上ライブしてました。演奏はもちろん、路上ライブの準備をする過程自体も楽しかったですね。車に機材を積み込んで、それを路上に並べて発電機を使って、アンプをつないで。僕はドラムをセッティングして。
「僕らはWEAVERといいます。CDを500円で売っています。」というポップを置いて、みんなで演奏する。路上ライブならではの度胸が必要で、多くの人は通り過ぎるだけ。でもたまに足を止めてくれる人がいてくれて、そういう人たちにチラシを配ったりして、ライブハウスでのライブを予定しているのでライブを観に来てくださいとか、宣伝活動をしていました。それで、実際にライブに来てくれた方もいて、達成感もありました。

-そして小説の中で、主人公が所属するノベルコードというバンドが初めて横浜アリーナで演奏する時の描写、主人公たちの戸惑いと興奮の描写にもリアルさを感じました。

河邉徹
WEAVERも神戸の小さなライブハウスでのライブ活動をしてきて、2009年のメジャーデビューしました。その時、それこそこの小説に登場するS-Records 社長・首藤健一さんみたいな人がいて、先輩バンドのflumpoolさんの武道館ライブのオープニングアクトでライブさせてもらえることになって、僕らはメジャーデビューした次の日に武道館のステージに立ったんです。
今まで多くて2、300人の前でライブしていたのが、急に1万人の前で演奏することに震えながらも演奏しました。小説でもそんなシーンがありましたが、大きな会場で自分が演奏した音が反響して跳ね返ってくる驚きなどは、当時の自分の経験を基に小説にしています。

-実際にイヤモニが無いと演奏しにくいものなんですか?

河邉徹
僕はもうそれに慣れてしまったので、それが無いとめっちゃ苦しいです(笑)
反響音は遅れて返ってくるので、ほんと、驚きますよ。

■ミュージシャンとSNSの関係

-登場人物がプロミュージシャンを目ざす物語としては、矢沢あいさんによる『NANA』も有名ですが、その物語の背景は、15年以上前です。一方、「僕らは風に吹かれて」はまさしく今の時代の背景に描かれています。例えば、SNSの描写。河邉さんは、今のSNSの在り方をどう捉えられていますか?

河邉徹
SNSを介して、自分たちを応援してくれている方々に、明日何があるよとか、今度ライブがあるよとか、自分たちの言葉で気軽に発信できるようになったし、近い距離に感じてもらえるというのは、コミュニケーションの場としては素晴らしいものだと思います。まずはそれが前提です。
その一方で、人によっては脅迫概念が生まれることもあると思います。SNSがあるからしなければいけないという。今の時代のミュージシャンが抱え始めている問題かもしれませんが、それはSNSだけに限らず、さっき言ったレコーディングというもののハードルが下がってきていることもそうです。
スマートフォンがあることによって、今までならスタッフの人がいないとできなかったあらゆることが、もうアーティストだけでできるようになってきています。できるようになってきているから、“やらなければいけないこと”のように一部のアーティストは感じていると思います。
ミュージシャンは音楽だけをやっていればよかったはずなのに、マーケティング含めてすべてを担わなければいけなくなっているんですよね。そのことに対して戸惑っているアーティストは必ずいると思います。

-ミュージシャンが政治的発言をすると批判する声が少なからずあります。本小説でも、テツがSNS上でそのような行動をしてメンバーから非難される描写がありますが、河邉さんご自身は、どう思われていますか?

河邉徹
僕個人の意見ですが、僕たちミュージシャンは、実際的な意味で誰かの生活を良くするという役割を担っていません。そういう人が、そこに踏み込むというのは、いくつか乗り越えなければいけないハードルがあるように僕は思っています。
もちろん、僕は政治的発言する人に対してダメだとは言わないです。影響力のある方の発言で、関心を持つ人が増えるのはとてもいいことです。ですがひとつだけ気をつけなければいけないと思うのは、音楽や芸術には、論理的な考えなどをすべて乗り越えて誰かを説得してしまう不思議な力があるということです。あってしまう、とも言えます。
極端な話をすれば、僕らがライブ中にカラスは白いんですって真剣に音楽に合わせてずっと歌い続けたら、なんだかカラスは白いのかもしれないなと思わせてしまうくらい、音楽、芸術には力があるものだと思うんです。
だから、そういう力を利用して僕らが何かの意見を自分のことを応援してくれている人たちに押し付けることは、間違ってしまう“可能性”があるかもしれない。
だからそれは、僕らがやることじゃなくて、みんなそれぞれが自分自身の力で論理的に考えて、音楽とか芸術とはできれば切り離された場所でちゃんと答えを出すべきなんじゃないかなって僕は思います。
この小説では、SNSについてはテツが政治的発言をするシーンがありますし、そもそも主人公・湊は、ずっとSNSのおかげで自身の立場を確立させています。
そして、彼らが、いいねの数を気にしたり、SNSに振り回される側面もあります。それは、今のミュージシャン含む多くの人が抱えていることとして描けたらいいなと思いました。

-本作で、主人公・湊が、YouTubeのスパチャ(スーパー・チャット/投げ銭)活動をするメンバーに懐疑的なところが描かれていますが、それは河邉さんご自身のお考えが反映されたものでしょうか?

河邉徹
いえ、小説なので、もちろん登場人物の意見ではあります。
それと同時に、僕よりもっと若い世代、20代前半や10代の人たちが感じてないかもしれない違和感を、僕らとその上の世代の人たちは感じてるかもしれないと思います。
インターネットを使った“投げ銭”というシステムが突然現れて、それが世界で普通になっていく、だけど、自分たちがまだ取り残されているような感じ。でもほんとは、時代に合わせてそれを活用することは今の時代で成功する秘訣なのかもしれない。だけど、違和感は拭えないというような、その感覚を小説の中で描けたらなという思いはありました。
コロナ禍における描写もそうですけど、僕はこの小説を通して何かを肯定するつもりも否定もするつもりはないんですね。でもいろんな思いを持った人はいるはずだと思っていたので、それを描きたいと思ったんです。

■音楽とサブスク

-本作では、音楽のサブスクについての描写もありますが、河邉さんはサブスクについてはどう思われますか?

河邉徹
音楽の聴き方が変わったと感じがします。僕らは、好きなアーティストがアルバムを出したら、アルバムを買って、順番に曲を聴いていくものだと思っていましたが、今の人たちは、アルバムという意識はなく、このアーティストのこの曲が好き、あるいは、アーティストの名前も知らないけれど、サブスクで聴けるこの曲が好き、他の曲はあまり知らない、という聴き方に変わってきていると思います。
強い曲を持っているアーティストが愛されることはいいことなので、もちろん悪いことではないんですけど、単純に曲の聴き方や、アーティストの応援のされ方というのは変わってきていると思います。

■歌詞を書くこと。小説を書くこと。

-河邉さんの文章は、読んでいて、映像が浮かんでくるような豊かな描写に感じました。そもそもですが、小説を書こうと思われたきっかけはなんだったんでしょうか?

河邉徹
2018年に「夢工場ラムレス」という作品で小説家デビューしましたが、その2年ほど前から小説を書き始めていたんです。
僕は高校生の頃からバンドの曲の歌詞を書いていて、今のWEAVERでもほとんどの曲で僕が歌詞を書いているのは、言葉で表現するということが僕は根本的に好きだからです。それを楽しいと思うし、それをもっと追求したいと思っています。
で、歌詞というものは基本的にメロディに助けられて羽ばたいていくものなんですけども、逆に、メロディーというものの制約も受けるところもあるんです。
もし、僕がメロディーに助けられずに、そしてメロディ-の制約も受けないで言葉だけで表現したら、どんなものが作れるんだろう?という好奇心があり、それが小説を書き始めたきっかけです。
歌詞を書くということは、書きたいことを研ぎ澄まして、削ぎ落として、残ったものを作品にしていくという作業になるんですが、小説は、たとえば言いたいことが10あったら、それにどんどん足していって100にしていく、そういうこともできますので、それが僕は楽しかったんです。どんどん自分が書きたいこと膨らまして物語を進めていく作業は、とても刺激的です。

-歌詞と比べて小説は長いですし、また別の構成スキルが必要になるのかなと思いますが、そのへんはどうやって会得されていったのですか?

河邉徹
もちろん最初は戸惑いもありました。例えば、会話をここに書きたいけど、会話の前後の地の文はどう書くのが普通なのか、次のシーンにいく時は何行空けるのか、など。
それまで小説自体は好きで読んできましたけど、作る感覚で読んでなかったので、改めて自分が書くという立場になってみるとわからないこともたくさんありました。なので今まで好きだった本を順番に読み直していって、そこに込められた構成の意図を自分のものにしていくようにしました。完全に独学です。

-物語のプロットは最初に考えられますか?

河邉徹
僕はなんとなくのプロットを決めます。今回の作品も、主人公がバンドに入って、そのバンドがどんどん大きくなっていって、これからっていう時にコロナの状況になるっていうのは、自分の中でプロットとしてありました。でも最後の終わり方は、書き始めた時は決めてませんでした。

-なるほど。では、途中の細かい描写などは、書き進めながら考えられているという感じですか?

河邉徹
そうです。

-河邉さんにとって、音楽で表現することと、小説で表現することそれぞれの思いは?

河邉徹
たとえば、ドラえもんの普段の30分の放送の時って、日常のことがベースのエピソードになっています。でも長編映画になると、宇宙に行ったりとか、恐竜が出てきたりとか、話が大きくなるじゃないですか。それと同じで、フォーマットに適した表現があると思っています。
歌詞を書く時に、この音楽だからこの歌詞が生きると思うこともあれば、逆に書きたいことが歌詞じゃ収まりきれなくて、断片的にしか自分の伝えたいものが伝わらないなって思う時は、小説にしてみる。このように、僕としては表現のフォーマット、すなわち伝えたいことを表現できる適切な場所を選べるようになったという感覚はあります。

-自分の小説作品を映像化してみたいとか、そしてそこに音楽をつけたいという思いはありますか?

河邉徹
以前『流星コーリング」という小説を書いて、その後に、WEAVERで同タイトルのアルバムを作るという試みをやったんですけども、それが今、漫画になりつつあったりだとか、少しずつ別の形になってきてるんですよね。
だからそんなふうに、自分の書いた小説がたとえば映画になって、そしてWEAVERが音楽を作ることができれば、それはすごく幸せなことなんじゃないかなと思います。「僕らは風に吹かれて」も是非映画になるように、どうぞよろしくお願いします!(笑) まずは小説を読んでもらえたら嬉しいです。

■言葉にうまくできなかったことが描かれている。

-「僕らは風に吹かれて」を読んだ読者からの感想で、河邉さんのところに届いている言葉はありますか?

河邉徹
はい。たとえば「今の時代に言葉にうまくできなかったことが、ここに物語として描かれていて、それによって救われました」と言っていただけて、これは嬉しいことですね。物語、小説だけができる役割として、誰かを救うことができたような気がしますし、そう思ってくれる人がこれから先も増えたらなと思います。

-最後にこれから読まれる方へのメッセージをお願いします。

河邉徹
「僕らは風に吹かれて」は、現代のミュージシャンの物語ですが、彼らの物語を通して、今の時代にうまく言葉にできなくてモヤモヤしたものを抱えている人たちの力になれたらなと思っています。

河邉徹(WEAVER)

■出版記念サイン会

インタビューを行った同じ日に、SHIBUYA TSUTAYAにて、河邉徹氏の「僕らは風に吹かれて」出版記念サイン会が行われ、ファンらが訪れていた。

河邉徹(WEAVER)

河邉徹(WEAVER)

[写真:金田一元/記事・写真:桜小路順]

印税、売り上げの一部を新型コロナウイルス対策に寄付

「僕らは風に吹かれて」は、寄付付き商品として、著者の河邉徹氏は印税の一部を、そして、発行元のステキブックスは売上の一部を、新型コロナウイルス対策で活躍する方々を支援するため、『新型コロナウイルス緊急支援募金』に寄付する。河邉徹氏の提案によるもの。

僕らは風に吹かれて

●河邉徹コメント
小説『僕らは風に吹かれて』の初版で受け取った印税の一部を、「新型コロナウイルス緊急支援募金」に寄付させていただきました。
そしてこれから先も、この小説が一冊売れるごとに100円ずつ寄付していきます。こちらは出版社と相談して、そういう仕組みを作ってもらいました。
寄付金は医師、看護師、ボランティアの方々の支援などに使っていただけるそうです。

この小説は現代の世界をミュージシャンの視点から書いた物語です。僕はこの物語を書きながら、この小説が僕らからライブを奪っていったコロナへの精一杯の反撃になるのではないかと思いました。

なので印税も、コロナで大変な方々に使っていただくことで、よりその意味合いが強くなると思いました。

この小説が、これからも今を生きる人の力になれると嬉しいです。

小説「僕らは風に吹かれて」

主人公はファッション系のインスタグラマーとして活動する湊(みなと)。彼が、天才的なボーカリストである蓮(れん)に誘われ、蓮が率いるインディーズバンド「ノベルコード」に参加するところから物語が始まります。すでにメジャーデビューも視野に捉えているノベルコードは、蓮の思惑通り音楽シーンを駆け上がるーー、というバンドの物語と、その状況に翻弄される湊の物語を、昨今の「コロナ禍」をキーワードにして交錯させているのがこの作品です。
河邉徹にしか書けない、仕事のこと、音楽業界のことなど、これからのバンド活動のヒントなど、読み応えのある320ページとなっています。
カバーイラストは、実写映画化もされた人気マンガ『あさひなぐ』の作者、こざき亜衣。

著者:河邉徹
定価:本体1,260円(税別)
発売日:2021年3月10日(予定)
仕様:四六判、並製、本文320頁
装画:こざき亜衣
装丁:中田舞子
発行:ステキブックス
発売:星雲社
ISBN:978-4-434-28591-2
各購入サイトリンク掲載ページ: https://sutekibooks.com/items/bokurawa

僕らは風に吹かれて

河邉徹プロフィール
1988年6月28日、兵庫県生まれ。スリーピース・ピアノロックバンドWEAVERのドラマーとして2009年10月にメジャーデビュー。バンドでは作詞を担当。2018年5月に小説家デビュー作となる『夢工場ラムレス』を刊行。2作目の『流星コーリング』が、第10回広島本大賞(小説部門)を受賞。3作目となる小説『アルヒのシンギュラリティ』を2020年8月7日に発売。TBS「王様のブランチ」BOOKコーナーにて、SHIBUYA TSUTAYA週間総合ランキング1位として紹介され、話題になる。

 

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