カテゴライズせず、お互いを認め合いたい。映画『Eggs 選ばれたい私たち』トークイベント
4月3日、テアトル新宿にて、映画『Eggs 選ばれたい私たち』のトークイベントが行われ、川崎僚監督と、過去作品出演の縁から女優・芋生悠が応援に駆けつけ、本作で描かれているテーマについて語り合った。
結婚も出産もしなくても、子供ができるとしたら―?産まなくても「母になりたい」と願う彼女たち。子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した独身主義者の純子。そのドナー登録説明会で、偶然再会した従姉妹の葵との共同生活から物語は始まる。
川崎僚監督は、オムニバス映画『SEASONS OF WOMAN』が池袋シネマ・ロサにて12月19日(金)より公開になるほか、文化庁委託業務「ndjc2019:若手映画監督育成プロジェクト」にて、35mフィルムで撮影された短編映画『あなたみたいに、なりたくない。』(2019/出演・阿部純子、小島聖 他)を制作するなど、いま活躍目覚ましい川崎僚。これが初長編となる本作では、自身の女性としての経験や体験を織り交ぜなら、結婚や出産を希望していない30歳目前の女性、そしてレズビアンの女性という対照的な2人の人物を通して、社会から求められる女性像と実像のずれに悩みながらも、それでも「母になりたい」と願う彼女たちを等身大に描いてみせた。
本作は、2018年タリン・ブラックナイツ映画祭で日本映画唯一のコンペティション作品に選出。同年の招待上映作品『万引き家族』とともに、日本の社会問題を扱った話題作となった。
本作ポスタービジュアルは、女優の根矢涼香がスチールを手掛け、主演の川合空がデザインしたもの。寺坂光恵演じる純子(上)と、川合空演じる葵(下)が、どこか不安な気持ちを感じつつ未来への希望を感じさせる表情をとらえた美しいデザインになっている。
舞台挨拶レポート
■芋生遥「ずっと泣くのを抑えていました」
川崎僚監督
芋生遥さんをお呼びしたのは、実は昨年末に池袋シネマロサという劇場で公開した『SEASONS OF WOMAN』という私が6年かけて撮ったオムニバス形式のインディーズ映画出演していただいているご縁からです。その中の『彼女のひまわり』という作品でね。
今回長編を撮ったので、芋生さんならこの映画をどう思うだろうっていうドキドキ感があって、しかも大好きなテアトル新宿ということで来ていただきました。
昨年テアトル新宿で上映した『ソワレ』も素晴らしかったですしね。
芋生遥
(『彼女のひまわり』の)撮影は2017年ですかね。私が17歳か18歳の時だったので、長い付き合いですよね。
川崎監督が長編を撮って、テアトル新宿で上映されていて、しかも作品も本当に素晴らしくて、なんだか泣きそうで、登壇しなきゃいけないから、メイクが崩れちゃうと思って、必死に「泣くな、泣くな」って抑えていました。
川崎僚監督
女優さんは、泣くこともできるけど、抑えることもできるんだね。
芋生遥
そうですね。魔法使いみたいですね(笑)
川崎僚監督
ちなみに、どこのシーンで泣くのを抑えたんですか?
芋生遥
最後の卵が落ちるところですね。ずっと序盤からこらえてきたものがずっとあって、それが爆発するような感じでしたね。
純子とか葵とか出てくる人みんなですけど、誰にも咎められずに、好きなように生きていきたいなっていうのもあるんだけど、どこかでやっぱり、認められたいとか選ばれたいっていう気持ちもある。心が孤独なのは人って耐えられないんだなっていうのを思って、結局やっぱり誰かに愛されたいなっていうのがあるんだなって、思いましたね。
■“女性はこうあるべき”という世間のレッテルに自分は反している
川崎僚監督
人って一人では生きていけないっていうけど、本当にその通りだなって思いならがも、世間の“女性はこうあるべきなんだ”みたいなものに自分の生き方は反しているところもあり。
映画を頑張りたいのに、「いい年してなにやってるの?結婚して子供を産まないと、今頑張らないと後で後悔するよ」って言われている感じがすごくて、それが、今の自分をそのまま受けとめられなくなってしまったんです。自分で自分の生き方を愛してあげたりだとか認めてあげたりだとかがすごく難しいなって思います。
この映画はその時の気持ちを描いていて、冒頭の卵をかき混ぜる音は、(エッグドナーとしての期限である30歳までの)タイムリミットの時計の音のように意識して作りました。
芋生遥
一番それが難しいですよね。人生の課題という感じがします。自分のことを認めてあげるって、一番難しいというか。
でも人のことを許せたり、自分のことを許せたりすると、必然と幸せになる感じはしていて、どんな生き方も抱きしめたいって言う声が出たのもそういうことで、観ていてそう思いました。
川崎僚監督
本当に素敵なコメントがいただけて嬉しかったです。
この映画を作ったきっかけは、エッグドナー、卵子提供を受けてご夫婦で子どもを幸せに育てていますよっていうご夫婦のインタビュー記事を新聞で読んだこと。
その時に、私はとても好意的に思ったんです。新しい家族の形だし、ご本人たちが納得して、こういう形で、家族になれる人たちがいるんだなって素敵だなと思ったんです。
でも、その記事に対するネットの反応の中には、「血がつながっていないから親子じゃないじゃないか」とか、顔も名前もわからない第三者がすごいバッシングをしていて。
なので、この映画が、その記事の応援する形になればいいなって思って作りました。そのインタビューに応えたご夫婦が実際にお子様のことをどう思ったんだろうって思ったんです。なんで、赤の他人が、誰も不幸になっていないのに、人の幸せを裁いてしまうのかと思いました。
私は今、結婚していないですし、パートナーもいないですし、それでも幸せなんですよ。
なぜかというと映画が大好きで、大好きなテアトル新宿で映画を上映していただいて、いま一番幸せで結婚式であるかのような感じなんです。でも、例えば結婚して、お子さんを育てている方の幸せを私は否定しようとは思いません。
たまに、私に対して「羨ましい」と言われるんですけど、「そんなことはないです、そちらも素敵に幸せそうです」って思うんです。
そこをお互いに認め合えばいいのにって、なんでみんな自分の価値基準で考えて、裁いて、誰かを嫉妬したりだとか、優位に立とうとしてしまったりするのかなって思って、どうか、そのステージから降りてほしくて、戦わないでいいじゃないって思いました。
芋生遥
それって根強くありますよね。人を裁いて、カテゴライズしなければいけないみたいなものがあるし、本当は多分、お互いに足りないものを補い合えば、きっとみんなが幸せなんだろうけど、それがなかなかできないっていうのがあるから、この映画を見ると少しでも人の事を認められるような人たちが増えるんじゃないかなと思いますね。
川崎僚監督
少しでもそういうことを考えられるきっかけにこの映画がなったら嬉しいなって思いますね。違いを楽しめたらいいのにね。
■生理の描写もストレートに描いている
芋生遥
映画っておもしろいですよね。私は、エッグドナーというのは全然知らなかったんで、この映画を見て、そういう人たちもいるんだなって思いました。
川崎僚監督
知ってもらいたいって言うのもあって、エッグドナーっていう制度もそうなんですけど、例えば、結構ストレートに生理の描写なども描いていて、男性にとっては未知のものだと思うんです。
なので、生理用品をどうやって使っているんだろうとか、洋服に血が付いてしまうとか、女性にはあるあるなんだけど、男性には生理用品の綺麗な爽やかなイメージしか知らないわけです。
それって私はタブー視するべきところではないと思っていて、知ってもらって、理解しあって、違いがあるからこそ理解して歩み寄りたいよねって思っています。
だからもう、映画が教えてくれることって、たくさんあると思っていて、私も小さいときから映画をたくさん見て、知ったこともたくさんあるから、この映画を見て男の人に、ストレートに知ってもらおうかなって思って描いています。
芋生遥
今日いらしている方は、男性も多いですよね。
川崎僚監督
嬉しいことに、昨日の初日の口コミも男性がとても好意的に受けとめてくれていましたね。
芋生遥
私もこの映画のエゴサをちょっとしていて、男性が多いなと思っていました。とてもいろいろと考えてくださっていますよね。
川崎僚監督
この映画が、考えるきっかけになってくれていたらとても嬉しいし、本当に作ってよかったなって思います。
■カテゴライズしなくていい。
芋生遥
川崎さんが描く女性って、本当に素直で、女性同士の純子と葵の間もそうですけど、すごい羨ましいというか、なんかいい関係だなーって思いますね。
川崎僚監督
私も、こんな二人が近くにいたらなと、理想もありつつ、私の周りの友だち同士のことも描きつつという感じです。
芋生遥
やはり、女性同士の恋愛とか、一緒に同棲しているっていうのもいいけど、友だち同士だったり、いとこ同士だったり、どんな関係でも一緒に過ごすのは、いいのかなって思いますね。
二人の関係ってどうなのって言われるかもしれないけど、何か足りないものを補いあえる関係ですごくいいなって思います。
川崎僚監督
誰かと誰かのパートナーシップ…私と私の大切な人との関係を「友だちです」、「恋人です」、「家族です」って名前をつけなくてもいいのになって思うことがあって、だって、友だちだってたくさんいるけど、ひとりひとり違うから。
だから、「この二人って仲が良いのか悪いのか、友だちなのかよくわからないです。」って感想をもらったことがあるんですけど、それが正解なんだと思います。この二人にしかわからないパートナーシップで、私はいいんだなって思っています。
芋生遥
そうなんですよね。だから、最後の涙を流せて、純子が葵を抱き締めることができたっていうのが、二人の関係性がもっとより深まった感じがして、いいなと思いました。
川崎僚監督
葵も偏見を受けていると思い込んでいるからこそ、彼女を抱きしめていいのかってことに躊躇してしまうと思うんです。そこをちゃんと二人で飛び越えて、性別だとか、いとこだとか、全部関係なしで、二人だけの絆があればいいという瞬間を一番描きたかったんです。
芋生遥
葵ちゃんの人に対する距離感とか、身体的に触れ合うことへのコンプレックス的なものがすごい終始感じられて、触れ合うってことに、最後に行き着いたのがすごくいいなって思いました。
川崎僚監督
LGBTQって、映画界で一種の流行り・トレンドになっていて、映画祭でもLGBTQのタグがついているくらいになっています。
家族とのしがらみとか、恋人の話が多いんだけど、友だちとの話が何で少ないんだろうって感じています。
私の恋愛対象は男性ですけど、男友だちもいるわけです。
芋生遥
多分、純子とかはカテゴライズすると、アセクシャル(無性愛)とかいろんな名前になるかもしれないけど、この映画の中ではまったくカテゴライズされていなというか、名前で呼んでいないというか、そこにいる女性…一人の女性として描かれてたのがすごいいいなと思ったし、葵も同じかなと思っていました。
川崎僚監督
カテゴライズしたくないんですよね。
一時期すごく嫌な思いを男性に受けて、本当に私が愚かだったんですけど、男の人全員がそういう風に見えてしまった時期があって、でも、男性だから、女性だからとか、この年代だからとかこの国籍だからとかで人は裁けないじゃない?
だから、先入観を無くして、目の前のその人をそのままありのまま受けとめられたら、お互い幸せなんだろうなってすごく感じていて、そのカテゴライズを日本は、“アラサ―女子”とか、“独身貴族”とか、「勝手に名前をつけないでください!」って感じにするところがあるから、私は私だし、あなたはあなただしって、そのままでフラットで、お互いにいられたらいいなって、それが伝えたかったんです。
芋生遥
私も18、19歳の頃、男性になるのも女性になるのもすごく嫌で、どちらとも呼ばれたくないというか、男性にも女性にも好かれるのが嫌みたいな複雑な心境の時がありました。
ボーイッシュな髪型にすると「男の子みたいになりたいのかな」って言われて。でもそういうわけじゃないし、“何か”と言われることを全部を断ち切りたくて、でもそれもなかなか苦しかったりもして。
結局どこかに収まらなきゃいけないんだなと思って、いろいろ頑張って女の子らしい格好しようかなみたいに試みたこともありましたが、でもそれはやっぱり自分らしくない…今は好きなように生きたいなっていうところにいます。
だからメイクは、全然興味がなかったんですけど、今は誰かに見せるためとかでなくて、メイクをすると自分がウキウキするからやっているし、友だちともその人たちといる時間が好きだから一緒にいるし、すごいシンプルに幸せだなって思います。
川崎僚監督
すごくよくわかります。私も爪を自己満足の為だけに青くしています。
■最後にメッセージ
芋生遥
久しぶりにテアトル新宿に来たし、登壇が久しぶりだったので、とても緊張していて、うまく話せたかわかりませんが、皆さんとお会いできたのが、すごく本当に嬉しいです。
映画がこうやってひとつ公開されて、川崎監督がこれからどんどん先に進んでいくなと思いました。
川崎僚監督
二日目でこれだけ多くの方が観にいらしていただいて、たくさんの人に届いているのが幸せです。でも、もっと届けたいので、少しでも気に入っていただけたら、是非、感想をいただきたいし、今は直接お客様とお話ができないからこそ、SNSを使って、素直な感想を伝えていただければと思います。私をはじめ、スタッフ・キャスト全員がチェックしていますのでよろしくお願いします。
■フォトギャラリー
[写真:金田一元/記事:桜小路順]
映画『Eggs 選ばれたい私たち』
STORY
子どものいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)に志願した独身主義者の純子。そのドナー登録説明会で、偶然、従姉妹の葵に再会し、彼女がレズビアンであることを知った。
恋人に家を追い出された葵は、純子の家に転がり込み、2人の少し奇妙な共同生活が始まった。
エッグドナーに選ばれれば、ハワイやマレーシアなどの海外で卵子を摘出し、謝礼金がもらえる。選ぶのは、子供を希望する夫婦。
そして、エッグドナーには30歳までという年齢制限がある。わずか数カ月で30歳を迎える純子は、それでもドナー登録をすることに決めた。
純子と葵は、どちらが選ばれるかという期待と不安を感じながらも、いつしか「遺伝子上の母になりたい」という同じ目的に向かって<選ばれる>為に、新たな生活を始めようとするのだった―。
出演:寺坂光恵、川合空、三坂知絵子、湯舟すぴか、新津ちせ、みやべほの、見里瑞穂、斉藤結女、荒木めぐみ、鈴木達也、生江美香穂、高木悠衣、森累珠、加藤桃子、すズきさだお、松井香保里
監督・脚本:川崎僚
助監督:田中麻子、野本梢、佐藤睦美
撮影:田辺清人/録音:中島浩一/照明:田辺清人/音楽:小林未季
衣装:川崎僚/メイク協力 田部井美穂
小道具協力:根矢涼香
制作:イリエナナコ、横山健介
テーマ曲「あお」作詞・作曲 小林未季
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム
(C)「Eggs 選ばれたい私たち」製作委員会
公式サイト:eggs-movie.com
予告編
2021年4月2日(金)テアトル新宿にて公開!以降全国順次
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