【インタビュー】笠松将「普段感じない怖さを感じた」 祷キララ「私は闇は抱えていない」
映画『ファンファーレが鳴り響く』(10/17公開)で主演を務める笠松将、ヒロイン・祷キララ、森田和樹監督に、本作の魅力、出演にあたっての思いを伺った。
持病の吃音症が原因で鬱屈した日々を過ごしている主人公・明彦(笠松将)が、クラスメイトの光莉(祷キララ)から「イジメてくる奴らを殺したいと思わない?」と明彦に問いかける。その日から明彦の中で、何かが変わっていく。
インタビューで、笠松将は「明彦は森田監督自身だと思った」、そして本作には、“普段感じない怖さ”も感じたことをその理由と共に明かしている。
高校生の男女の逃亡劇が描かれる本作は、10月17日(土)公開。新宿K’s cinemaでは、10月17日(土)に、14:40~の回上映後及び16:45~の回上映前に、笠松将、祷キララ、森田和樹監督らによる初日舞台挨拶が行われる。
笠松将×祷キララ×森田和樹監督 インタビュー
■監督の人生を投影した作品
-本作の資料に「森田監督の人生を投影するスプラッター青春群像劇」と記載がありますが、“人生を投影する”ということについて、具体的に教えてください。
森田和樹監督
本作の主人公・明彦は学生社会から弾かれている人物ですが、私もそういう経験があったんです。28歳の頃、病気を抱えて、そして治療を進めて体力は回復していったんですが、就職面接では「やっぱりその身体じゃ働けないよね」と厳しい現実に直面して。自分は社会的弱者なんだって社会から弾かれた気持ちになったことをこの作品に投影しています。ただ、殺人欲求があるわけではありません(笑)
■笠松「僕で大丈夫ですか?」 祷「私は心に闇は抱えていないと思う(笑)」
-笠松将さん、祷キララさんのご出演の経緯について教えて下さい。
森田和樹監督
もともとお二人のことは知っていました。脚本を書いている途中から、光莉(ヒカリ)は祷さんがいいなってずっと思っていました。それは、『Dressing Up』(2013)での祷さんの印象が強かったのもあります。
プロデューサーが挙げた明彦役の候補は3人いて、笠松くんがいちばん一生懸命やってくれそうでいいなって思ってたんですが、1点だけ不安要素がありました。それはイケメンだし、少し悪目の雰囲気の役の方が似合いそうだということ(笑)
でも、お会いした時に、笠松くん自身が「僕で大丈夫ですか?」って言ってくれたんです。明彦は弱い男の子だから、笠松くん自身もそこは大丈夫かなって思ってくれていたみたいで。でも、その一言で僕の中の気持ちがストンと抜けた感じになって、笠松くんに是非お願いしたいと思いました。
-出演オファーを受けて、そして脚本を読まれての笠松さん、祷さんはどういうお気持ちでしたか?
笠松将(神戸明彦 役)
当時は自分に出演の依頼が来るっていうのが嬉しい時期だったので、スケジュール調整ができるなら、どんな作品でもやりたいっていう気持ちでした。
さらに、脚本を読ませていただいた時に、監督がやりたいことがハッキリしていたし、こういう作品・役柄はやったことがなかったので、やる意味はあるなと思いました。
祷キララ(七尾光莉 役)
先ほど監督がおっしゃってくれた『Dressing Up』とか、私が出演した過去の作品の役のイメージがあるのかなって思いました。これまでの役は、家庭環境が不幸せだったり、心に闇を抱えていたりという役が多くて、そういう意味では今回の光莉という役もそれらと近いところがありますし。
近いですけれど、光莉はこれまでの役よりも深みがあって、ある意味新しいなと感じて、この役を自分がやるってなったら、どんなものが自分から出てくるんだろう?って、それが楽しみになって、やってみたいなって思いました。
今までの私を知ってる人は、「今回の役も祷キララらしいな」って思うかもしれないけど(笑)、実際に映画を観た後にどう思うのかなっていうのは気になります。
ただ、私自身は、これまでやってきた役のキャラクターと自分が近いとは思ったことはないですからね(笑) 私は家族が大好きで仲良しだし。心に闇を抱えているかどうかは自分ではわからないですけど(笑)
■笠松将が本作に感じた“普段感じない怖さ”とは?
-笠松さんがご自身のTwitterアカウントで、「この作品をやるにあたり、普段感じない怖さを感じました。詳細は取材で答えます。」って書かれています。その“怖さ”について教えて下さい。
笠松将
大きく2つあります。
1つはこの作品が低予算作品だからこその怖さ。同時期に別のテレビドラマの撮影もやっていましたから如実に感じたんですが、映画は、役者がただそこにいて演じるだけでは成立しにくい。やはり予算がかけられて創り上げられる撮影現場のフィールド魔法の必要性というのは否定できないんです。
そしてもうひとつは、吃音症を演じること。そのことについてちゃんと勉強し、理解した上でお芝をする必要があります。それでも、たぶん文句を言われるかもしれない。それを受け入れる覚悟を持った上で演じなくてなはいけないということです。
これらの思いが、撮影2日前になって、自分の中で大きな怖さにもなっていったんです。
■“明彦”は監督自身?
-笠松将さん、祷キララさん、それぞれ、明彦、光莉というキャラクターをどう解釈されていますか?
祷キララ
光莉というキャラクターは、彼女がやったことだけを見ると、すごく過激で危なくて理解し難いキャラクターに思えます。
ではなぜそういうことをしたのか?その時光莉の心の中にはどういうものがあったのだろうって考えた時に、100%理解できるとは言えませんが、私なりに考えた時に、光莉の中で納得ができて覚悟ができた上でやっていると。そしてその納得や覚悟は、軽んじたらダメだなとも。
高校生の光莉が、それまでの十数年、自分が見てきたもの、会ってきた人、いろんな出来事や経験してきたことなどが、自分の世界の中で最大まで考えた上で、そうするしかない道に進んで行っている。
その道に進むまでの光莉の気持ちの変遷を考えた時に、私は、光莉の立場に立って演じることを全うしたい、そして光莉について、犯罪者という一言でまとめちゃダメな人なんだと思いました。
そのように、光莉の信念の部分を、私が強く持っていないと、意味がわからないキャラクターで終わってしまうから、そこは演じる上で苦戦しましたし、難しかったです。
笠松将
これは監督には確認取ってないですけど、明彦って監督ご自身なのかなと思っています。
明彦は、この社会に自分の居場所が無く、家族も仲間も何も無いと思っているけど、自分じゃなにもできない。そんな明彦にとって、光莉と人殺しをしながら一緒にいたあの数日間はだけは宝物だったと。明彦が人生の最後にこの数日間だけを思い出すくらいに。
そしてそれは森田監督にとって、この映画の撮影中なのかなって、僕にはそうとしか見えないんです。監督が最後死ぬ時は、この作品のことを思い出してくれるくらいに(笑)
明彦が、もし光莉と過ごした時間が無かったとしたら、ラストシーンであのような表情ができたのかなとも思いますし、あのラストがあるからこそ、僕が明彦の役をやった意味はあると感じました。僕は、明彦を演じながら、ずっと明彦を応援していました。ガンバレって。
-確かに犯罪を犯す2人ですが、映画化もされた“ボニーとクライド”の2人の物語に通じるものを感じました。観てる側として明彦と光莉を応援してしまう気持ち。
■僕がこの人のために一生懸命にやる意味
-さて、笠松将さん、祷キララさんお二人にとって、森田監督の撮影現場はいかがでしたか?
笠松将
人によって出す正解って違うのもありますが、撮影部や録音部のスタッフは、森田監督(31)より一周り以上のベテランの方ばかりで、彼らが監督に「こうじゃないですか?」っていろいろ意見を言い寄ってくるんですよ。
僕も普段から喋る方なので、その延長線上ではあるんですが、監督に「こんなこと言わなくない?」とか、「このシーン、破綻してない?」って詰め寄ることも。
監督は、ご本人もおっしゃってるように口下手だから、ずばりピンポイントでの反論はなかなかされないんですけど、自分が思う正解じゃなかった時は、妥協は絶対にされない。限られた撮影の時間の中で、周りからプレッシャーをバチバチにかけられる中においても。そこは今振り返ればスゴイなって思います。
監督のその信念は、監督にとっての闘いでもあるし、僕がこの人のために一生懸命にやる意味になりました。
祷キララ
今、笠松さんのお話しを聞いて、いろいろ思い出しました。ほんとそのとおりです。
監督の中に、ご自身が納得できる正解に辿り着くまでの執念がすごくあると感じました。
私と意見が対立することもありましたが、私の意見はちゃんと聞いてくれた上で、「こうなんだ」っていう作品に対する強い思いがあって、その熱意は嬉しく感じました。
全部がうまくいくわけではない中、それでも大事にしたいことは守り抜こうとしていることって、物を作る人としては魅力的ですし、そういうものを持っている人が創るものを私は観たいなって思います。
-お二人のこの言葉を受けて、森田監督はいかがですか?
森田和樹監督
笠松くんが言うように、スタッフからの反対意見もあって、それはもちろんプレッシャーには感じるけど、敵対視されたということではなく、頑張ろうよっていう意見で、とてもありがたいことでした。自分の非力さっていうのもすごいくわかりましたし、逆に助かった部分の方が多かったです。
■最後にメッセージ
-最後に、祷キララさん、笠松将さん、森田監督からこの映画をご覧になる方へのメッセージをお願いします。
笠松将
この作品よりもっと予算も大きくて、有名な俳優さんが出演されている作品を観てきたし、僕も出てきましたけど、中には面白くないのもあるんですよ。でも、この作品は100点満点はぜんぜん採れてないですし、正直目をつぶってほしいところもあります。「ここは許して!」みたいな(笑)
だけど、全部観てくれた時に、何か感じてもらえる面白さがあると思います。僕は面白かったし、この映画に出演して良かったなとも思っていますから。
祷キララ
先日、完成版を観て、現場に入るまで台本を読んで思っていたこととか、現場にいてこんな作品になるのかなって思っていたこととかが、良い意味で裏切られたと感じました。明彦と光莉が選んで進んだ道を、ただの人殺しとして片付けてほしくないですし、それで片付く映画ではないと改めて思えたからです。
ですので、この作品にスプラッタームービーのイメージを持ってた人が観た後にどう思うのかなっていうのは気になりますし、ドキドキしています。自分は出演者なので、たぶんフラットには観れてないんですけど、フラットに観た人がどう思うかがまったく読めないからです。
森田和樹監督
もしかしたら誰かを傷つけてしまう表現があるかもしれないし、受け入れられない行動を映したものではあるけれども、これは正直僕自身の物語でもあります。笠松くんの言うように、確かに成立していないところはあるんですけれど、でもそこをカバーできるくらいの熱量が、主演の笠松くんと祷さんにあって。もちろんその他のキャストの皆さんにも。
最後の笠松くんと祷さんの掛け合いのシーンもすごく良くて、このシーンを観るだけでも価値があるんじゃないかなと思っています。いろんなことを考えさせれるような映画になっていると思いますので、ぜひ、劇場でご覧下さい。
[祷キララ・・・ヘアメイク:榎本愛子/ジャケット、パンツ:LEINWANDE、シューズ:UNTISHOLD、リング、バングル、イヤーカフ:Fauvirame]
[写真:Ichigen Kaneda/写真・記事:Jun Sakurakoji]
映画『ファンファーレが鳴り響く』
【STORY】
高校生の明彦(笠松将)は、鬱屈した日々を過ごしている。持病の吃音症が原因でクラスメイトからイジメられ、家族にその悩みを打ち明けられないどころか、厳格な父親(川瀬陽太)からは厳しく叱咤され、母親(黒沢あすか)からは憐れんで過度な心配をされ、脳内で空想の神を殺しなんとか自身を保っている状態だ。
そんなある日、明彦はクラスメイトの才色兼備な女子生徒・光莉(祷キララ)が野良猫を殺している現場に偶然居合わせてしまう。光莉は、生理の時に見た自分の血に興味を駆られ、他者の血を見たい欲求を持っていた。光莉は「イジメてくる奴らを殺したいと思わない?」と明彦に問いかける。その日から明彦の中で、何かが変わったのだった。
明彦は、自身が学校でイジメられていることをホームルーム中に訴える。そのせいで明彦はさらにイジメグループから追い回されることになり、街中逃げ回るが、ついに追いつめられる。しかしそこで、光莉がまた野良猫を殺していた。そしてそのナイフで、光莉はなんと明彦をイジメている同級生を殺してしまう…。二人はその現実から逃げるように都会へと向かう。その最中に出会う、汚い大人たちをさらに殺していき、二人の血に塗れた逃亡劇は確実に悲劇に向かっていくのだった…。
出演者:
笠松将、祷キララ、黒沢あすか、川瀬陽太、日高七海、上西雄大、大西信満、木下ほうか、他
スタッフ
監督・脚本:森田和樹
製作:塩月隆史、人見剛史、小林未生和、森田和樹
プロデューサー:小林良二、鈴木祐介、角田陸、塩月隆史
撮影:吉沢和晃 録音:西山秀明 助監督:森山茂雄 特殊造形:土肥良成
主題歌:「美しい人生」sachi.
制作・配給・宣伝:渋谷プロダクション
製作:「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会
(C)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会
公式サイト:fanfare-movie.com/
予告篇
10月17日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
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