リピーター続出!映画『ヘレディタリー/継承』町山智浩氏の深~い解説紹介!
11月30日の公開以降、リピーター続出の映画『ヘレディタリー/継承』。
ホラー映画というカテゴリで紹介されているが、映画評論家・町山智浩によると、本作は家族映画でもあるという。また邦画を含む多くの家族映画の影響を受けているという本作について、アリ・アスター監督から直接聞いてきたという“深い話”を紹介。本記事ではその内容を紹介する。
また、12月11日まで、アリ・アスター監督とのQ&A企画もTwitter上で展開されている。
「噂どおり今年最恐」「本物の幽霊が映っているらしい」
完璧なクオリティと幽霊のウワサで「怖すぎるのにもう一度観たい」と話題沸騰!
本作は、公開前からマスコミ試写や先行上映会で「常軌を逸した完成度」「怖すぎる」と絶賛され、ホラー映画が多く公開された今年の中でも、本命の一本として期待されていたが、初日以降「噂通りの恐怖」「怖すぎて眠れなくなった」「一人で夜道を歩くのが怖い」と【超恐怖】を体験した観客の感想が相次いだ。
さらに、映画全体に謎やメタファーが散りばめられ、それら全てがラストに待つトラウマ級の恐怖の伏線になっているという、異常なほど計算し尽くされた脚本に「こんなに恐ろしいのに、もう一度見ないではいられない!」「何度見ても発見がある!」と、“今年最恐”の再体験と、“全ての謎の解明”を求めるリピーターも続出している。
映画公式サイトには、鑑賞後専用の、隠された謎や伏線を徹底解説する特設ページが設置されているが、週末にはアクセスが集中し一時ダウンするという事態にもなった。
さらに、11月21日発売の映画雑誌”映画秘宝”誌面にて「本物の幽霊が映っている」と紹介されたことが噂になり、どのシーンに「本物の幽霊が映っている」のかを議論する声も相次ぎ、話題に拍車がかかっている。
【『へレディタリー/継承』オープニング成績】
初日3日間(11/30~12/2)合計で動員21,459人・興行収入\25,973,600
『ヘレディタリー/継承』
TOHOシネマズ 日比谷ほか絶賛上映中
配給:ファントム・フィルム
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
©2018 Hereditary Film Productions, LLC
「アリ・アスターだけど何か質問ある?」
『へレディタリー/継承』アリ・アスター監督とのQ&A
『へレディタリー/継承』の脚本・監督をつとめたアリ・アスターが、本作を鑑賞した日本の観客とのQ&Aを行う。事前に映画公式twitterで質問を募り、それにアリ・アスター監督が回答してくれる。
質問募集期間:12/7(金)〜12/11(火)正午
映画公式twitter https://twitter.com/hereditaryjp にて質問を募集。
寄せられた質問からアリ・アスター監督の回答を、後日映画公式twitterにて発表。
※寄せられた全ての質問へ監督が回答するとは限りません。予めご了承ください。
町山智浩、アリ・アスター監督直撃インタビューの深い話を紹介。
映画公開初日の11月30日、TOHOシネマズ新宿での上映後、映画評論家の町山智浩さんが登壇。
アリ・アスター監督から直接聞いてきたという深い話を観客に紹介した。
※以降、ネタバレ部分はカットしています。
上映後、登壇した町山智浩さんは、自身の着ているTシャツのマークについて客席に問いかけた。
これは、映画の中で、ピーターがチャーリーを連れて車でパーティーに行くシーンで、道中、電柱にこのマークが描いてあったのだそうで、これもストーリーの重要な伏線になっている。
町山智浩
この映画に仕掛けられたトリックはパンフレットにも書いてあります。
映画を観た後にパンフレットをご覧になって、映画をもう一度観ていただくと、「あ!この段階で既にネタをふっているのか!」っていうのがすごくよくわかります。
先週、アリ・アスター監督に会いに行って、パンフレットに載っていないことなど、いろいろ話を聞いてきましたので紹介します。
ホラーのつもりで作っていない
町山智浩
アリー監督によると、この映画はオカルト・ホラーのふりをしているけども、自分としてはそのつもりで作っていない。あるシーン(ネタバレ規制)以降は、家族映画として描いていると。
『ヘレディタリー/継承』に影響を与えた数多くの作品
『ヘレディタリー/継承』のベースは「家族映画」で、アスター監督は影響を受けたさまざまな作品を語った。
町山智浩
まず、ロバート・レッドフォード監督の『普通の人々』。
この映画はイヤな映画で母親が息子を拒否するというショッキングな映画なんですが、アスター監督も非常にショックを受けて、彼なりに再現したのが、アニーがピーターに向かって「私はあなたの親なんかになりなくなかったのよ」というシーンです。
僕としても映画史上もっともイヤなシーンだなと、言っちゃいけないことを言ったなと感じるシーンですね。
イングマール・ベルイマン監督『叫びとささやき』(1972年)
アン・リー監督『アイス・ストーム』(1997年)
(お父さんが車のハンドルに突っ伏して泣くシーンも再現している)
ラース・フォン・トリアー監督『アンチクライスト』(2009年)
ラース・フォン・トリアー監督『アンチクライスト』(2009年)
ミヒャエル・ハネケ監督『セブンス・コンチネント』(1989年)
ミヒャエル・ハネケ監督『白いリボン』(2009年)
(鳥の首を切るシーンはヘレディタリーにもある)
溝口健二監督『雨月物語』(1953年)
新藤兼人監督『鬼婆』(1964年)
(ピーターがお母さんから逃げるシーン。これは鬼婆のクライマックスでまったく同じシーンがある)
本作の重要なシーン“ヘラクレス編”
町山智浩
ピーターが授業を受けているけど、先生の話を聞いていなくて、女の子のお尻ばかりを見ているシーン。
この授業では、“ヘラクレス(ギリシャ神話の英雄)の物語”を教えていました。
授業では“ヘラクラスの選択”について教えていますが、映画をご覧になった方はこれが本作のストーリーの深い伏線になっていることに気づくでしょう。
本作の重要なシーン“イフゲニア編”
町山智浩
授業のシーンでは続いて、先生は“イフゲニア”について話をしています。
イフゲニアはトロイ戦争の頃のお姫様の名前。
この話もヘレディタリーの重要なストーリーに繋がっていくことを示唆しています。
ちなみに、イフゲニアの話は、ヨルゴス・ランティモス監督の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア 』(2017年)という映画のテーマになっています。
アスター監督に「イフゲニアが出てきましたよね」って聞いたら、「偶然なんだよね。でも僕は『聖なる鹿殺し』のようなああいうイヤな話の映画が好きなんだよ。」とニコニコして言ってました。
『ヘレディタリー/継承』は家族の話の集大成
町山智浩
これらのように、『ヘレディタリー/継承』はアメリカでは、ホラー・オカルトの分類で公開されたんだけど、根底にあるのは、ヨーロッパ系映画の家族の嫌な話の集大成なんです。
今日紹介しただけでも、10本近く世界の嫌な家族映画がつまっています。
隠しネタがあちこちに。
町山智浩
本作はいろんなところに隠しネタがあって、何度も観ないとわからないんですが、たとえばパーティでYouTubeを観ているシーン。
そこで高校生たちが観ていたのは、ジョルジュ・メリエス『或る犯罪の物語』(1901年)です。
アリ・アスター自身のトラウマを昇華させた
町山智浩
お母さんのアニーは夢遊病で精神科医に通っています。
ミニチュアのドールハウスを作っていますが、これは“箱庭療法”で、精神科医の指導で治療として作っています。
箱庭を作るということは、自分が家庭・家族をコントロールできないことを箱庭でコントロールすることによって、客観的に自分を見るため。
そうやって自分のトラウマを外部化していくというのが箱庭療法。
なのでこの描写は本作として重要で外せないものだったとアスター監督は言っています。
箱庭療法がなぜこの映画にとって重要なんですか?と聞いたら、アスター監督は「この映画自体が私にとってのセラピー(治療)だから。僕の家族(弟)にあることが起きました。そのことで傷ついた自分自身を癒やすために物語を作り上げていきました。」と。
この映画のシナリオ作成だけで5年もかけたのは、自分自身のトラウマと関係しているからというところまではいろんなインタビューで語っています。
監督は自分に起こった悲劇を作品に昇華することで、克服しようとしたんだとということだけは確実に言えると思います。
映画は作り手のパーソナルな部分が表現されてこそ切実になる
町山智浩
この映画のテーマは、遺伝的、もしくは家族の継承から人は逃れられないんだっていうことです。
それはまったくアメリカ的ではないので、そういうテーマなんですかと、アスター監督にお聞きしたら、
「そうなんです。例えばガンという病気は遺伝性がありますが、“呪い”というものがもしあるとすれば、それも継承されて家族を縛るんです」と。
だから映画ってすごくパーソナルなことなんだなぁって思います。
その部分が無いと、切実な映画にならないんだなと思います。
監督はもう2作目は撮影を終えたようです。
監督自身は、芸術映画をホラー映画の枠組みで作っていきたいと言っています。
すごく面白いことになってくるんだろうなと思っています。
ということで、このアスター監督に注目してください。
[写真・取材:Jun Sakurakoji]
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