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第2回新潟国際アニメーション映画祭

【特別トーク】片渕須直監督新作「見え始めた『つるばみ色のなぎ子たち』の世界」

3月20日まで開催される第2回新潟国際アニメーション映画祭。18日、日報ホールにて、片渕須直監督トークセッションが行われ、制作中の新作映画『つるばみ色のなぎ子たち』について、片渕監督ならではの緻密な時代考証とそれがもたらすもの、そして展望について語った。

「枕草子を再検証すると、新しい可能性が出てくる」

昨年も新潟国際アニメーション映画祭に登場した片渕須直監督。昨年9月に完成したパイロット版の上映からスタートした。
本作は、清少納言によって枕草子が書かれた平安時代中期が舞台。平安時代は400年ほどと江戸時代よりも長く、初期や後期に比べて資料が圧倒的に少ない。学者すら「一番資料ないところじゃないの!僕は手を引きます」というほどだそうだ。
今回紹介された衣装、十二単すら現存する彫刻や落書き、書物などから考証を重ねている。それは「下着を着ていたか着ていないか」といったところから始まり、女房衣裳の設定画も改訂を重ね、書き上げられたのは今年1月のことだったそうだ。

第2回新潟国際アニメーション映画祭

片渕須直監督

さらに、京都といえば盆地のイメージが強いが、実は内裏があった北の方角が標高が高く、1.8度傾斜があったことがわかったという。右京と呼ばれた場所は水はけが悪く人の住めない土地だったことも、当時の地形、等高線やロケハンなどから割り出していった。戦国時代この地は豊臣秀吉による工事が入り、さらに複雑になっているそうで「秀吉の杜撰な工事のせいで我々は苦労しているんですよ!」と会場を笑わせた。
「後は何を復元すればいいのでしょうか!」と片渕監督がぼやくほど、まるでそこに平安時代の人々が生きているかのように緻密に繊細に考証を重ねて、今ようやく脚本段階に到着。

第2回新潟国際アニメーション映画祭

「思った以上に地形とかはかけ離れているんだけれども、やっていることは意外と現代的。(枕草子やその時代は)論文もあるし、本もたくさんあるし、“要出典”ってかかれない、疑わしくないと言われていることを1から調べ直すと違うイメージが湧いてくることがたくさんあります。清少納言自身、すごい活発で勝ち気な人だなんて、実は当時のものの中にどこにも見つからない。(清少納言が仕えた)中宮定子と清少納言が漫画で描かれると大体仲が良いわけですね、なんで仲が良かったのかな、なんていうのを実は考えないといけなかったりするわけです。そうやって『今までこうだったんじゃないの』ということにちょっと合理的な目を向け始めると、ずいぶんいろんなことが変わって見えてきたりするんですね。今まで書いてあったことを疑ってかかってるわけじゃないんだけど、再検証するっていうのが正しい道だと思っています。再検証を繰り返すとどんどん新しい可能性が、別の状況だったのかなと思えてくる」と、この地道で緻密な<再検証>こそが片渕監督の映画の持つ力の原点。
「いろんな着ているものが違う、建物の様子が違えば行ったり来たりする様子も変わる。同じように見えているけれど、平面は同じでもそこに高低差があると色々違ってくるだろうな、なんて」

第2回新潟国際アニメーション映画祭

「普通だったら脚本をまず書いてしまうんですけれども、大体清少納言が993年からの何年かは見えているわけですよね、すでに。でも細かなところで、この人たちは本当は何を考えていたのかな、あるいはどんなところにどんな格好をしていっていたのかな、なんてことを考えるのを先にやらないと進まない。そろそろそれが終わりの方まで見えてきたので、順番は逆なんですけど、脚本という文字のかたちで起こし直すことをやりました。見えてきつつ、また最後の方は、登場人物がリアルな歴史の中ではこんなことをやっちゃって、このままだとお話終われないなと都合のいいセリフを自分で書き足してみて。それでもう一回当時の記憶にあたってみたら本当にその人が改心してたりして。当時の人のリアルなセリフ、そういうふうに生きてきたんだということがわかる」と、片渕監督が擦り出したシナリオの束を掲げると場内からは「おお!」と感嘆の声が上がった。

第2回新潟国際アニメーション映画祭

「紫式部の源氏物語は、紫式部がこしらえたストーリーであるのに対し、枕草子は読んでみると記憶、ですね。自分が心の中に覚えたことを書き留めた、アルバムと言えるかもしれない。その中には本当にリアルな人間たちの気持ちがそのままこもっているような気もします」

第2回新潟国際アニメーション映画祭

さらに最後はタイトルの【つるばみ色】についても。「つるばみ色って、はっきりいうと喪服の色のことです。亡くなった人のリストを作ってみたんですけど、たくさんの亡くなった人の名前が出てきます。こんなに毎日。喪服は一回着ると近親者の中でも父・母・あるいは仕えている主人とかだと13ヶ月着ないといけない。もうずっと喪服着っぱなしじゃんという状況になる。このこと自体今まで思い描いていた枕草子の時代とは全然違っているわけですね」と題名に含まれた意味を語り、ますます新作への期待は高まるばかりだ。

第2回新潟国際アニメーション映画祭

片渕須直監督

【第2回新潟国際アニメーション映画祭】
英語表記:Niigata International Animation Film Festival
主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会
企画制作:ユーロスペース+ジェンコ
会期:2024年3月15日(金)~20日(水)
公式サイト:https://niaff.net
公式X:@NIAFF_animation
公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC81m7n8a8MgQGC-8MUXs7pA

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