ここ以外のどこかへ

【俳優×監督インタビュー】映画にしなければという使命感 映画『ここ以外のどこかへ』

6月18日(土)より、池袋シネマ・ロサにて公開の映画『ここ以外のどこかへ』。前作『グラデーション』が高い評価を受け注目の新鋭・椎名零監督による本作に込めた思いと、W主演の辻本りこ、森本あお に、出演の取り組みや自身のことについて話を聞いた。

『ここ以外のどこかへ』は、「家にいられない事情がある人々や家にいたくない気持ちを抱える人々に寄り添う映画を、ステイホームが奨励される今こそ作りたい」という椎名監督の思いから制作され、親を持つ子、子を持つ親、家族を持つすべての人にとって他人事ではない、家族との向き合い方を問う作品に仕上がった。
W主演を務めるのは、共に映画初主演である辻本りこと森本あお。二人の母親役として小夏いっこ、大石菊華が出演。対照的な二つの家族がリアリティをもって描き出されている。
2021年7月に企画始動、8月から9月にかけて撮影が行われ、完成から一年と経たずに劇場公開を迎えることとなった。製作費を募り実施したクラウドファンディングは達成率190%超で終了し、公開前から注目を集めている。

W主演俳優×監督 インタビュー

ここ以外のどこかへ

辻本りこ/森本あお/椎名零監督

■「使命感が自分の中にあった」

-本作制作のきっかけについて教えてください。

椎名零監督
コロナ禍について、一度ちゃんと向き合って映画にしなければいけないという使命感が自分の中にありました。
私が常に疑問に思っていたのが“ステイホーム”という言葉です。家にいることが一番正しいことで安全だという風潮になりましたが、そうすると、家に居場所が無い人はどうすればいいんだろう?って疑問に思ったからです。
例えば家庭内でDVを受けている方とかについての問題提起は見かけたんですけど、そこまでいかないようなグレーゾーンにいる人たち、さまざまな理由で家に居づらい人たちもいると思うんです。全員が全員家族と仲が良いわけでもないので。そういう違和感を映画にしようと思いました。

-『(Instrumental)』(6/25公開)の監督の宮坂一輝(みやさか かずき)監督が本作の撮影応援をされたそうですが、その経緯と具体的にはどういう応援でしたか?両作はテーマに共通するものがあるように感じましたので質問させてください。

椎名零監督
私がもともと早稲田の「映像製作集団浪人街」という映画サークル出身なんですが、そのつながりで同じ早稲田の「映画研究会」の宮坂くんが手伝いに来てくれたんです。『(Instrumental)』とテーマが近いということは、今言われて気づきました(笑)

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椎名零監督

-W主演の辻本りこさんと森本あおさん、本作の脚本を最初に読んだ時の印象を教えてください。

森本あお(ひかる 役)
家族と不仲になるという点では、身に覚えがあるなということは思いましたが、ただ、私の場合ステイホーム期間中に母と仲が良くなっていったという経験をしました。せっかく家にいるんだから、母とちゃんと話しするように心がけたのがきっかけでした。

-それまでのお芝居のご経験は?

森本あお
18、19歳頃から演劇をメインにやっている中、少しずつ映像のお芝居も関わらせていただくこともありました。

辻本りこ(みおな 役)
私は脚本を読む以前にお話いただいたことにまずビックリしました(笑)
私はそれまでお芝居の経験がまったく無かったからです。映画サークルのお手伝いや、出演したとしても椎名監督のエキストラ程度でしたから。
でも脚本を読んでから納得するところはありました。“みおな”ってそのまま私だって思ったんです。私も5歳の時に両親が離婚してからは、ずっと父と暮らしていました。その父は、人としてはぜんぜん悪くないし優しいんですけど、競馬、パチンコ、お酒が好きなところがあって、親としての役割は担えていなくて、そこは“みおな”のお母さんと似ているなって思いました。
自主制作映画の良さは、監督の想いがより強く込められていることと、作品全体の“生々しさ”だと思っていて、そういう意味では私が幼少期からリアルに体験していることが活かせると思いました。

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森本あお/辻本りこ

■「私一人だけ好戦的だったんです」

-辻本さんのキャスティングはそれが理由なんですか?

椎名零監督
りこちゃんにゼロから当て書きしたわけではないです。私の中に元々あったイメージをベースにりこちゃんに当てていったという感じです。

-森本さんのキャスティングの理由は?

椎名零監督
あおちゃんとの出会いは大学の映画祭で上映した私の映画『グラデーション』を観てくれたあと、「お芝居をやりたいと思っている人間なんですけど、あなたの映画がすごく良いので売り込みに来ました」って声をかけてくれたことです。そういう経験は私にとって初めてだったので、とても感激して、いつか一緒にやりたいと思いました。
そして、この映画の物語を作る前から、あおちゃんとりこちゃんについてはずっとイメージしていました。以前、MVを作った時にもこの2人に出演してもらったんですが、とっても相性が良いんです。もともとお友だちだし仲が良いっていうのもあるんですけどね。
2人が並んで歩いてると、身長が近いからかもしれませんが、まとまって可愛らしく見えるんですよね(笑)

-森本さんは当時椎名監督についてどういう印象を持って売り込みに?

森本あお
その映画祭で、審査をされていたプロの映画監督の方々と椎名監督らとのトークセッションも拝見して、椎名監督が輝いて見えたんです。

椎名零監督
言っちゃいますと、私一人だけ好戦的だったんです(笑)
プロの大人の映画監督を前にして、低姿勢な学生監督が多い中、私は「私の映画のどこがダメなんですか?」っていうスタンスでいたので(笑)

森本あお
そうです(笑)『グラデーション』は直感的に好きだなと思えた作品でしたし、それを監督された椎名さんのその言動を見て、自分がやりたいことをちゃんと伝える手段を持っている、「私はこういうことをしたくて、これをしましたが、あなたはどう思いますか?」とちゃんと言葉にできる方だと思ったんです。「なぜ映画を撮るのか?」ということがとても明確に感じられて、それが輝いて見えたんです。
その椎名監督にこの作品に呼んでもらえてほんとうに嬉しかったです。

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辻本りこ/森本あお/椎名零監督

■お互いの印象

-お二人は共演してみて、お互いの印象はどうですか?

森本あお
(辻本りこさんは)第一印象はフワッとしたイメージだったんですが、“みおな”としても辻本りこさんとしても長い時間関わることができて、尊敬できるところがたくさんあるなと思いました。好きなことは好きとはっきり言えるし、それを否定してくるものに対してちゃんと怒りも持てる。
一方で、可愛らしくて優しいところもあって、ほんとうに“みおな”そのものというか、私が内向きになりがちなところをほぐしてくれて、外の世界に戻してくれるんです。日常でもお芝居でもすごく助けられました。

辻本りこ
初めて会ったのはこの作品を撮る4年くらい前の大学1年生の春頃。森本さんが出演していた、小野遥香さんという早稲田で映画監督されている方の作品の撮影のお手伝いをした時です。その時に、佇まいからして人前に出る人だ!っていうオーラを感じたんです。それが第一印象です。
そして今回共演していて感じたのは、たとえば注意された時、私はヘヘって笑ってごまかしがちなんですが、彼女は、ちゃんと嫌なことは嫌だと言うし、ちゃんと落ち込めるし、自分のためにちゃんと悲しむことができる人だなって。こういうことって、当たり前のようででも難しいとも思うんです。人の気持を汲み取ることも大事ですけど、自分の気持ちを一番汲み取れるのは自分なので、そんな自分を大事にしてあげられる人だなと思います。
その丁寧さが演技にも出てると思うし、写真も撮られているんですが、とても丁寧で綺麗な写真に感じています。

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場面写真(森本あお/辻本りこ)

■「適度に辛く、適度に楽しく」

-椎名監督の印象と撮影現場の雰囲気はどうでしたか?

森本あお
椎名監督は、監督以外の業務も多く、スケジュールやスタッフ・キャストのお弁当の手配含めてほんとに細々やっていらっしゃいました。大変だったと思うんですけど、ほんとに行き届いた現場でした。
香盤表も椎名監督が書かれていて、それを見ればわからないことが無いくらいにきめ細やかに書かれていました。コロナ対策、スタッフの配慮がとんでもなく行き届いていて、それだけでもすごい方で尊敬します。
チーム全体が椎名さんを慕っているのをひしひしと感じました。とても素敵な現場でしたし、今でもその時の写真を見返すと楽しかったなぁっていう思い出が蘇ります。

辻本りこ
実務的なことで言えばとてもスピード感がある監督で、頭の中にあるものを形にする実行力は昔から尊敬しています。
森本さんが話したように、現場への気遣いをすごくされていて、皆が気持ち良く撮影に臨めることができました。
また、今、映画界での労働問題、ジェンダー問題、ハラスメント問題が取り沙汰されてますが、椎名監督はいち早くそのことに、SNSなどを通して問題提起されていました。
何より、椎名監督は「楽しく撮ろう!」という雰囲気作りをしてくれる方で、みんなも「楽しみたい!」って気持ちで現場に集っているのを感じました。

-お二人から楽しい現場という言葉が出ましたが、とはいえ、監督として時には厳しい側面も必要かと思います。監督によるハラスメントが問題にもなっている中、そのへんのバランスはどのように捉えられていましたか?

椎名零監督
私のモットーとして「適度に辛く、適度に楽しく」というのがあって、楽しいだけだと緩みますし達成感も薄れる。ちょっと辛いぐらいの方が頑張った感じにもなりますし、団結感も強まるし、多少はピリっとしていないといい空気感は生まれないということは意識しています。
でも、現場で怒鳴るとか暴力をふるうとかは、意味がわからないです。たとえ切羽詰まった撮影現場だったとしても他人に対して怒りをぶつけたり暴力を振るったりとかは考えられないです。それが日本の映画界で一部でもあるのだとしたらとても残念です。

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辻本りこ/森本あお/椎名零監督

■総合芸術の映画に関わっていきたい

-お二人の今後の抱負があればお聞かせください。

森本あお
俳優の仕事は楽しいですし、ずっと映画に出演し続けられていられるように、これからも頑張っていきたいです。
あと、写真も撮っているので、写真と俳優、それぞれが多くの方に認めてもらえるようになりたいです。
お芝居をすること、写真を撮ることは、自分が自分でいることの証明だとも思うことと、そういう芸術に自分自身が救われてきたこともあるので、多くの方に認めてもらえるということは、誰かを救うことに繋がるとも思うからです。

辻本りこ
私も表現することが好きなので、“自分はこういう人間なんだよ”ということをお芝居などを通して伝えていきたいです。
私も写真を撮ることをやっていて、高校時代は写真部に所属していて、フィルムカメラなどで、女の子を撮影していました。それは今でもやっていて、その内容で小冊子を作ることもしています。そういう中、山戸結希監督の『溺れるナイフ』という映画作品に出会って、映画の世界に関わりたいと思うようになったんです。映画は、音楽、映像、写真、いろんなものが総合して出来上がっていますが、それってものすごい芸術だなと思うんです。そういう映画の世界にこれからもなんらかの形で関わっていきたいと思っています。

-皆さんそれぞれ、普段はどんなことをして過ごすのが好きですか?

椎名零監督
旅行と喫茶店が好きです。コロナ禍でなかなか地方には行けない時もインスタなんかで地方の喫茶店の写真を見ていました。
もうひとつハマっているのが「ガンダム」です。私のTwitterをフォローしてくれている方は、インディーズ映画が好きな大人の方が多いんですが、その世代の方はガンダムファンも多くて、いろんなことを教えてくれます(笑)

森本あお
私は映画、読書、そしてギターを弾くことです。音楽を聴きながら散歩やランニングすることも好きです。
あと、祖母が生花の先生なんですが、子どもの頃から家の中に植物がたくさんあって、その影響で今の自分でプランターなんかで植物を育てています。散歩している時はカメラも持って、町中にある草木の葉に葉脈があると嬉しくなって写真を撮ったりします。

辻本りこ
私も散歩好きですが、あとアイドル、特にハロー!プロジェクトが好きです。
最近はK-POPも好きになって、それがきっかけでダンススタジオに通い始めました。今日もこのあとレッスンに行きます(笑)

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森本あお/椎名零監督/辻本りこ

■最後にメッセージ

-最後に監督から本作をこれからご覧になる方へのメッセージをお願いします。

椎名零監督
この作品は映画祭の出品もしていませんし、今回の公開がまさにプレミアとなります。なのでこれまで感想はほぼいただいていませんので、公開に対して不安な気持ちはあります。
昨年、『グラデーション』という映画で劇場公開デビューしたんですが、それから1年。「こいつはどれくらい成長したんだろう?」と観られると思うとそれも怖いです。
なので、けっこうそわそわ、ドキドキしているんですけど、公開されたら、たくさんのご感想をいただきたいと思っています。
大きい言い方になりますが、私は人類を救済するために映画を撮っているので、『ここ以外のどこかへ』も救済したい人たちがいて、そういう人たちが一人でも多くこの映画を観て、人生に良い影響があったらいいいなと思っています。

ここ以外のどこかへ

辻本りこ/椎名零監督/森本あお

■撮り下ろしフォトギャラリー

[写真・インタビュー:桜小路順]

映画『ここ以外のどこかへ』

コロナ禍が浮き彫りにした家族の在り方を問う物語

INTRODUCTION
監督は、青年同士の恋とも友情ともつかない交流を描いた映画「グラデーション」(2020)で劇場デビューを果たした椎名零。人間関係の機微を丁寧に切り取る独自の感性が評価されている。
「家にいられない事情がある人々や家にいたくない気持ちを抱える人々に寄り添う映画を、ステイホームが奨励される今こそ作りたい」という監督の思いから制作され、親を持つ子、子を持つ親、家族を持つすべての人にとって他人事ではない、家族との向き合い方を問う作品に仕上がった。
ダブル主演を務めるのは、共に映画初主演である辻本りこと森本あお。二人の母親役として小夏いっこ、大石菊華が出演。対照的な二つの家族がリアリティをもって描き出されている。
2021年7月に企画始動、8月から9月にかけて撮影が行われ、完成から一年と経たずに劇場公開を迎えることとなった。製作費を募り実施したクラウドファンディングは達成率190%超で終了し、公開前から注目を集めている。

STORY
コロナを理由に母親(大石菊華)に外出を禁じられ、何ヶ月も外に出ていないひかる(森本あお)。日々飲んだくれる母親(小夏いっこ)に悩まされ、家に居場所がないみおな(辻本りこ)。ある夜家を飛び出したひかるは偶然みおなに出会い、「家にいたくない」思いを抱える二人はあてどない”夜の散歩”に出かける。

出演:辻本りこ 森本あお 小夏いっこ 大石菊華 渡部直也 茶依 谷口昌英 寒川祥吾 渡邊麻梨奈 本多奈々子 小川兎海
監督・脚本・編集:椎名零
撮影・照明:逵真平|撮影助手:安井彬|撮影応援:谷口昌英 宮坂一輝
制作進行:冨福恭平 橋本颯太|制作:大野安由好 三浦泰隆
録音:梅田侑宜 橋本颯太|録音協力:松沢梢
広報:大野安由好 堀越まい
衣裳:樋口菜摘|スチール:サイトウムネヒロ|カラリスト:よう
音楽:ren du|宣伝美術:藤巻菜々子
2021年/日本/55分/16:9
公式Twitter:https://twitter.com/shiinagumi_2021
公式Intagram:https://instagram.com/shiinagumi_2021

予告編

YouTube player

上映劇場:池袋シネマ・ロサ
上映期間:2022年6月18日(土)~7月1日(金)

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