いとうせいこう

【インタビュー】いとうせいこう「柄本明さんと絡めた幸せ感といったらない。」映画『脳天パラダイス』

11/20公開、理屈抜きのブッ飛び映画『脳天パラダイス』。「台本を見たらデッタラメな内容でこれはいい!」と思ったことが出演のきっかけになったという、いとうせいこうに、実はちゃんと映画に出たのはこれが初めてというその思いを伺った。

ローザンヌ映画祭(スイス)にも出品された本作は、これまで『ロビンソンの庭』をはじめ、『ジャンク フード』、『水の声を聞く』など、独創的な作品で常に時代を先行してきた山本政志監督の、理屈抜きにブッ飛んだ映画を撮ろう。そんな執念のもと、その想いを昇華させた最狂昇天トランス映画。
その内容は、激毒を含んだキワドさに満ち溢れ、冒頭で家族を題材にしたドラマが始まるかと思いきや、すぐに夏祭りのようなハイテンションと祝祭感に満ちた展開を迎える。やがて“お焚き上げ”状態に至ると、後はコメディー、SFX、ミュージカル 、動物、ワイヤーアクション、怪獣、と、あらゆる映画要素が目まぐるしく投入される。

脳天パラダイス

いとうせいこうインタビュー

いとうせいこう

いとうせいこう

いとうせいこう演じる笹谷修次は、東京郊外、高台にある大豪邸の家長だったが、お金のトラブルで家を手放さざるを得ない状況でやさぐれている。
物語は引っ越し当日から始まる。娘のあかね(小川未祐)が不甲斐ない父親にイラつきながら、ヤケクソ気分でTwitterに 「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください。」と地図付きツイートしたことがきっかけで、瞬く間にカオスな状況へと突入していく・・・。

■台本を見たらデッタラメな内容でこれはいい!って。

-本作のオファーを受けた時のお気持ちを教えて下さい。

いとうせいこう(笹谷修次 役)
山本政志監督の映画と聞いて、監督の『ロビンソンの庭』(1987)や『てなもんやコネクション』(1990)を観て知っていたし、すごいミュージシャンたちがいっぱい出ていたのも知っていたから、光栄なオファーだなって思いました。

-本作の脚本を最初にご覧になった時はどう思われましたか?

いとうせいこう
台本を見たら、デッタラメな内容だったわけ(笑)で、これならいい!って思って。
僕は、これまで何日もかけて撮影するっていう映画の仕事をしたことがなく、シティボーイズなどとのコントあがりの人間です。そういう笑いのことをずっと考えてきた人間として、この作品は役に立てるなって思ったから、僕でよければぜひにと。
ただ、この作品はコメディなんだけど、明らかにその面白さがわかるコメディではなくて、ある意味表現が難しいところがあるなとは思いましたね。

いとうせいこう

■山本監督と僕はすごく相性がいい

-山本監督が、リハーサルの時間があんまり取れなかったけど、撮影直前に作品の空気感をいとうさんがすべて作ってくれたとおっしゃってました。

いとうせいこう
そんなこと言ってた?それは嬉しいなぁ。

-それはやはりいとうさんがコントで培われたものなのかなと思いました。

いとうせいこう
うん、ここの狙いはこんな感じなんじゃないかなとか、とてもやりやすかったのもある。
それは、山本監督と僕の相性が合うからかも。最初、怖い人かと思ってたんだけど、「いとうさん、そこはもうちょっといい加減な感じのほうがいいかなぁ」って理知的でジェントルな言い方をされるので、安心できたことと、僕に伝わるロジックで言ってくれるから。
山本監督は、もうちょっとテンポアップかな、もうちょっと暗い感じかなって言って、ビデオエンジニアさんが映像の色調を調整するように、俺の芝居を調整してくれる。だからすごいリラックスしてできた。
僕みたいな理屈っぽい人間からしたら、「なるほどわかりました!」ってなる。「せいこうちゃん、せいこうちゃん」って気さくに呼んでくれてすごくしゃべりやすい監督ですし。
で、僕が演じた“笹谷修次”の一言突っ込んで笑わせてスッといなくなるっていうのは、僕が好きな笑わせ方でもあります。低く笑わせて、自分は笑わないでじっとしているっていうのが好きなんだよね。それを監督は知ってたんじゃないかな。コントの作品は映像でも出ているから。

脳天パラダイス

場面写真 (C)2020 Continental Circus Pictures

-山本監督の話では、いとうさんの音楽ライブはご覧になっているとか。

いとうせいこう
そうそう、音楽のライブで僕を見てるんじゃないかなって思うんですよ。山本さんはロックバンド・JAGATARAにプロデューサーで関わっていたりとか、音楽的な人でもあるんですよ。だから僕の音楽的な部分のリズム感みたいなものを使いたかったのかもね。きっとそうなんだろうなって思って。だから、ふてくされてねって言われたら、それはテンポを遅くしてねっていう意味ですよ。ほとんど。

■喜劇をやってきたからこそ普通にできた

-いとうさんが演じたお父さんはどんな人物なのでしょうか?とにかく早くちゃんと引っ越ししたい!って思っているにも関わらず、次から次へと起きていくハプニングをなんとなく受け入れているようにも見える不思議な感じもします。

いとうせいこう
確かにね(笑)
あれは、僕が喜劇をやってきたから普通にできることですよね。素っ頓狂なことが起きるのはコントの世界では当たり前。で、そのことがどう変かをお客に伝えたい。それでお客が面白いって思う。

-そのへんのバランスはありますか?

いとうせいこう
ありますね。あ、今気づいたけど、コントあがりの人間だからこそできることだったかもしれない。

-その素っ頓狂な状況を受け入れすぎても面白くないかもしれませんしね。

いとうせいこう
そう、受け入れすぎて「へぇ、そうなんだ」ってなっても面白くなくて、「これなのかなぁ?」って薄々納得しながらの微妙な雰囲気を出す。それであるわけないんだけどね(笑)
こういうのはたぶんいろんなやり方があると思うんですよね。僕の思うバランスで芝居をしたら、山本監督はOK、OK!って。だから、笑いの感覚が僕と監督は似ているんじゃないかと。

-なるほど。

いとうせいこう
あれだけの素っ頓狂な状況をおかしいなって思いながら受け入れないといけない。その微妙ないい加減さ、ある意味論理を無視しているようなところ、思考停止していることって、喜劇の基本なんです。
たとえば、子どもが木の枝になっちゃって、絶対におかしいのに、「そうなのかなぁ?」ってなるのは、半分思考停止させてできることなんですよ。
果歩さんが宙を飛ぶところも、なんの意味もないじゃない(笑)「お?お?お~??そっちにいくんだ?」ってぐらいの気持ちで、微妙な顔で見ていた方が面白い。なんか変だなって軽く思っているくらいの感じが面白いんだと思います。
こういうところは僕の大好きな喜劇の表現のひとつ。
笑いとしては、ツッコミよりボケの方が楽しいね。ツッコミはそこで解決しちゃうじゃない。解決しないまんま次のシーンにいくっていうのが、ボケの楽しさですから。お客もどこで笑ってもいいんですよ。自由なの。

脳天パラダイス

宙を舞ってトラックを飛び越える南果歩と、木の枝になった少年を手にするいとうせいこう。(C)2020 Continental Circus Pictures

-ただ、引越し業者にだけは厳しくつっこんでますよね(笑)

いとうせいこう
そうそう、そこは怒るんだ?みたいな(笑)

脳天パラダイス

引越し業者に勝手に死んだ柄本明を片付けろと厳しく指示するいとうせいこう。(C)2020 Continental Circus Pictures

■柄本明さんと絡めた幸せ感といったらない。

-せいこうさんから見て、柄本明(えもとあきら)さんの怪演ぶりはどう思われますか?

いとうせいこう
柄本さんは大先輩だし、すごい“雰囲気”を持っているから、共演できたことは光栄ですし面白かったなぁ。
“雰囲気”とは、落語では“フラ”って言うんですけど、そういうのって、一緒に舞台に立たないと身につかないし、盗みにくいものなんですよね。説明できないから。だから、柄本さんと絡めた幸せ感といったらないです。
一緒に舞台に立たないと身につかないということで言うと、今は亡くなられた小沢昭一さんにも感じました。僕がプロデュースしていた「したまちコメディ映画祭」の舞台で、時間が押して、大物芸人さんとか次のゲストが袖で待っているのに、なかなか舞台から降りてこない小沢昭一さんを止めようと僕が自信持って舞台に上がった時。
彼は、ツルっツルの陶器みたいな、どこにも指がかからないような印象で成す術もなく。その時は舞台の上で呆然として、こういうタイプの人がいるんだって思った。その経験は自分の中でめっちゃデカイの。
それは柄本明さんもそうで、一緒にいると初めて伝わる何かなんですよね。
撮影の合間も、シェイクスピアの話をしたりとか。(柄本さんの)あの格好でそういう話をするのも突拍子もないというか面白いよね(笑)
そういうことのひとつひとつが自分にとって、何の本を読むよりも早く、とっても勉強になりましたね。それはやっぱり喜劇の良さかなぁ。僕は柄本さんみたいな笑わせ方はできないけど、でも、柄本さんと絡んだことで、何かの要素が自分の中に入るから。間みたいなものがね。
せっかく入ってきたものだから、家に帰って柄本さんはこんな感じで笑わせてたなぁって、違うな、これは早いなぁって、真似てやってみるんです。それも面白かった。

脳天パラダイス

柄本明 (C)2020 Continental Circus Pictures

-いとうさんはどんどん吸収されようとするんですね。

いとうせいこう
試してみたいんだよね。それは人と絡む、絡まないに関わらず、たとえばテレビですごい面白いボケがあったけど、ちゃんと若手がツッコめてない時があると、俺ならどうするのかなぁって頭の中でやってみて、違うなぁ、言葉が違う?間が違う?とか、すごいシミュレーションするんですよ。それはたぶん喜劇の人はみんなやっていると思いますよ。
そうすると、いざっていう時にそれが出るんですよ。やってない人は出ないんです。

いとうせいこう

■気楽にやれたのは南果歩さんや山本監督の度量の広さのおかげ

-他の共演者さんとの思い出はありますか?

いとうせいこう
(南)果歩さんがすごく文学のことに詳しくて、文学とかアートの話もできたし、すごい面白い人だった。
俺が(役者として)ド素人だってわかっているはずなのに、「いとうさんはすごく自信を持ってやっているからとてもいい」って言ってくれて。俺は別に自信を持ってやってるんじゃなくて、気楽だったんだよね(笑)それはさっき言ったように山本監督の元で安心してわかりやすくできたことと、果歩さんや、他の役者さんたちの受け入れてくれる度量が広くて、僕はそれでよけいに気楽にやれたんじゃないかなぁ。
監督にも役者にも許容してもらって、その上で自分の間(ま)で芝居を遊べた。それはすごく嬉しかったですよね。そしてそれが映像作品として残ることも。今までは舞台だから消えてしまうわけだから、全部。映像作品として残るというのはありがたい。しくじってしまったものも含めてね。

脳天パラダイス

南果歩 (C)2020 Continental Circus Pictures

■マジか!?『シン・ゴジラ』の人なの!?

-某有名コーヒーチェーンのパロディと謎な“物体”のシーンが印象深いです。

いとうせいこう
あのコーヒーショップのセットは屋敷の中に作ってたな。あの変な大きくて動く“物体”もそのへんに立ってたよ。で、「あ、絶対にこいつが作ったな」ってやつが一人横についてた。「こいつ、特撮が大好きなんだなぁ」って雰囲気の人が。そういう人が僕は好きだから。
でも話しかけることができなかったよ。あのテカテカした感じを出すことに真剣に集中しているから(笑)
すごいやつだったと思うよ。だって、あそこだけ映画の中で浮いているでしょ?どう考えても(笑)
クリエイティブって、金とか時間じゃねえんだよっていう人が何人集まるかってこともあるから、(謎な“物体”を作ったのは)明らかにコイツだなって思える人がいることがもう、この映画はOK!大丈夫!って思ったね。

-資料によると、その“物体”の制作は、『20世紀少年』『シン・ゴジラ』『東京喰種』『鋼の錬金術師』など、特殊造形の第一人者・百武朋さんが担当されたそうです。

いとうせいこう
マジか!?『シン・ゴジラ』の人なの!?
そっか、やっぱりすごい人だろうなって雰囲気があったもん!
話しかけられないもん。真剣だし、僕の浅い知識で中途半端なこと言えないじゃん。ほんとに気持ち悪く作ってるわけだから(笑)

いとうせいこう

-百武朋さんだっていう情報はご存知なかったのに、すごい人だってことは感じられていたんですね。

いとうせいこう
それは感じたね。ピーンってくるよね(笑)

-そしてなんと言ってもクライマックスのミュージカルシーン(*)が圧巻でした。

いとうせいこう
そのシーンの撮影はスケジュールの都合で参加できなかったんですよ。でもあのシーンは出たかったよね。一番の盛り上がりのデタラメシーンだから。古田新太くんもいるし、TURTLE ISLANDの永山くんが歌っていたり、DJ Tommyっていう初期のヒップホップシーンからよく知っている人もいるし、そういう意味じゃライブハウスにいるような感じだったんだろうなって、あぁ、いたかったなぁって。

[(*)解説]このミュージカルシーンは、「サザンオールスターズ」や「乃木坂46」、「くまもん」をはじめ数多くのCMで振付演出を担当した南流石がダンス演出で参加。音楽は、伝説のバンド「JAGATARA」のOtoで、王道ミュージカルから始まリアップテンポのインド風ダンスになり大団円の音頭へと至る、突き抜けたメイン音楽を提供。撮影時は、もはや撮影を超えた一大イベントの様相を呈したという。山本監督は、「ミュージカルシーンは、いつかやりたかった。3曲目の『宇宙音頭』で出演者全員が開放的な表情に変化していくところは、撮っていて感激したなぁ。JAGATARA仲間のOtoや南が音楽と振り付けを担当してくれた事で、アケミ(JAGATARAのボーカリスト江戸アケミ。1990年1月27日死去)も参加してるような気配もして感慨深かった。」と述懐している。

■今はいいものができてくる時期

-最後に、いとうせいこうさんの今後目含めて活動内容のPRなどありましたら是非ご紹介ください。

いとうせいこう
今年は2本続けて小説を書いて、それをまとめた1冊は先日発売されました(「夢七日 夜を昼の國」文藝春秋刊)。
そして今は、「いとうせいこうis the poet(イズザポエット)」っていうダブ・ポエトリーのバンドをやっててライブもしています。来年初頭にはアルバムも出します。
今、自分の活動を好きにできていてとても幸せな時期なんで、そういう時期はいいものができていくはずなので、どういうジャンルでもいいから、なんとなく気にしてくれたら、おもしろいことをやってますんでよろしくお願いします!

いとうせいこう

[写真:桜小路順/聞き手:安田寧子]

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映画『脳天パラダイス』

ストーリー
東京郊外、高台にある一軒の大豪邸。あとは引越し業者のトラックに荷物を積み込むだけとなった部屋を、やさぐれた表情で見わたす笹谷修次。家⻑でありながら、この家を手放す原因を作った張本人である。
引きこもり気味の息子・ゆうたは淡々と現実を受け止めている。
一方、生意気盛りの娘・あかねは不甲斐ない父親にイラつきながら、ヤケクソ気分で Twitter に「今日、パーティをしましょう。誰でも来てください。」と地図付きツイート。
そのままフテ寝してしまう。投稿がリツイートされまくり、瞬く間に拡散している状況を示す通知が鳴り響いていることも知らずに……。
数年前、恋人を作って家を出たはずの自由奔放な元妻・昭子がやってきた。
パーティーのツイッターをみてやってきたのだ。ゆうたは、久しぶりの母との再会を喜ぶが、修次やあかねにとっては招かれざる客でしかない。借金まみれになり、一家離散目前の笹谷家にツイッターをみて、次々にパーティー客がやってくる。インド人のゲイカップル、やる気のない運送業者、手癖の悪いあかねの友人、台湾から来た観光客の親子、酔っ払いの OL、恋人を探しているイラン人、謎のホームレス老人…。
そんな中、来客を頑なに追い返そうと一人奮闘する修次だったが、珍客はどんどん増え続ける。
しだいに豪邸は、ドンチャン騒ぎを超えた、狂喜乱舞の縁日の境内状態になっていく。
笹谷一家の引越しは!? いやいや、もうそれどころじゃない!
客たちによって一家の運命はめくるめく奇々怪々と狂喜乱舞へと導かれていく……!
これは現実か、それとも幻覚か、果たして彼らの行く末は!? もう誰も逃げられない。
『脳天パラダイス』への扉が今、開いてしまったのだ!

<出演>
南果歩 いとうせいこう 田本清嵐 小川未祐 玄理 村上淳 古田新太 柄本明
大河内健太郎 小竹原晋 星野園美 沢井小次郎 安田ユウ 李丹 張天屹 野村陽介
ニール・ターリセッチィ アレック・アスギャリー 和川ミユウ 植田紗々 髙橋里恩 江波里香
渡瀬うみな 齋藤勇真 森川貴 庄司浩之 ノブヲ 畑中タメ 吉田茂樹 牧山みどり 紀那きりこ
藤本国彦 島津志織 小林敏和 菊地敦子 清水ひさを 鳳ルミ 柳川竜二
永山愛樹/竹舞(TURTLE ISLAND/ALKDO)

<スタッフ>
監督:山本政志
脚本:金子鈴幸、山本政志
メインテーマ:Oto
特殊スタイリスト:百武朋 操演/特殊効果:羽鳥博幸
VFXディレクター:中口岳樹、島田欣征
ドローンオペレーター:池田佳史、山本雅映
エグゼクティブプロデューサー:吴清萍、大江戸康
プロデューサー:村岡伸一郎
企画:シネマインパクト、C・C・P 協賛:高見庭園
配給:TOCANA
製作協力:UNIVA Guangzhou Trading 製作:パンクチュアルカルチャー 大江戸美術
(C)2020 Continental Circus Pictures
公式HP:no-ten.com

予告篇

『脳天パラダイス』公開応援プロジェクト、クラウドファンディング実施中!
https://motion-gallery.net/projects/NOUTEN-PARADISE

2020年11月20日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開!

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