すずさんの時代と現代とを繋ぐ‘のん’の演技力。第21回文化庁メディア芸術祭
のん&片渕監督トーク『この世界の片隅に』
6月23日、「第21回文化庁メディア芸術祭」で、アニメーション部門大賞を受賞した『この世界の片隅に』のトーク付上映がTOHOシネマズ六本木で行われ、主演声優をつとめたのんさんと、片渕須直監督が登壇した。
2016年の映画公開から600日近く経つ中、改めて本作について語り、主人公すずさんの号泣シーンの録音秘話について、のんさんの演技への取り組み方と共に明かされた。(動画&フォト)
トークイベントのモデレーターは、医学博士で、日本アニメーション学会理事など多くの肩書を持つ横田正夫氏。
今回のメディア芸術祭では、アニメーション部門審査員も務めた。
呉にお嫁にいった主人公すずさんのところに、幼馴染の水原哲が訪れた時、納屋で怒りの感情を爆発させるシーンは、その後のすずさんの生き方を変える劇的なシーンで、またそれを見事に演じたのんさんが素晴らしいと、横田氏は絶賛していた。
のんさんは、声だけで、すずさんという人物を作り上げることに立ち向かって挑戦していたということが片渕監督から明かされ、特に映画終盤での号泣シーンは、録音ブースを真っ暗にし、のんさん独りだけにして、演技に集中させ、出来上がったものだという。
また、すずさんのちょっと昔の広島弁をのんさんが見事に再現できていることを、映画を観た広島の若い人が「私のおばあちゃんの喋り方だ。おばあちゃんにも娘時代があったんだとよくわかりました。」と言ってくれたことで気づいたと片渕監督。
その瞬間、「のんちゃんの声を通じて、そのおばあさんが若かった頃から現在まで時間が繋がったんだなぁ、それが演技の力なんだなぁ。」とすごく感慨深ったとのこと。
7月・8月はまた上映館が増えることになっているとのことで、片渕監督は「映画館に支えられている映画というものがまだまだ頑張っていける」と、喜びを語った。
のんさんは「長尺版も作られていくので、もっともっといろんな方々に観ていただけるチャンスかなって思っています。」と、本作のさらなる広がりの期待を見せた。
トークイベント
片渕監督
TOHOシネマズ六本木は東京国際映画祭でプレミア上映をやったところなので、懐かしいんですね。
それからずいぶん経ったんですが今でも劇場で上映が続いていてありがたいなと思っています。
– 映画の人物を演じるには好きになるというところはあると思います。そういう意味で、すずさんを自分の分身として考えるなら、のんさんはどう感じられてますか?
のん
すずさんの役に取り組む時に、最初、自分との共通点を探して、そこから広げるようにしたんですけど、その時に見つけたのは、ボーッとしていると言われやすいところだったりとか、実は力強いところがあったり、おとぼけてみせたりとか、そういうところは自分と似ているなと思います。
– 片渕監督の作品は似たような主人公が多いと感じてます。そこには片渕監督の分身的な要素が入っていると思いますが、いかがですか?
片渕監督
そう言われて意外でしたが、考えてみるとそれぞれの登場人物がどこで何を感じてっていうのは自分でひとつひとつ納得しながらやってきたことではあるから、同じシチュエーションなら自分も同じように感じているんだろうなと改めて思いますね。
– メディア芸術祭の授賞式で、功労賞を受賞された田宮俊作さん(田宮模型)と監督がお互い「メジャーで測る」とおっしゃってましたが、それはどういうことですか?
片渕監督
田宮さんは模型を作るために実物をメジャーで測って形を把握するところから始めるとおっしゃってて、私はその話は中学生の頃から聞いて知っていました。
で、アニメーションを作るようになって、気づいたら私もメジャーで測るようになっていたんです。ただ、飛行機とかは測らなくて、ドブの幅を測って、周作さんとすずさんが入れるのかとかですが(笑)
私は、メジャーで測れるリアルさで世の中に相対しているんだなと改めて思います。
– すずさんは呉にお嫁に来た頃は、失敗して周りから笑われることはあっても、あまり自分から笑う余裕はなかったような印象がありますが、のんさんはどう感じられてますか?
のん
私は、すずさんはボーッとしているというよりも、ずっと考え事をしていて、想像の中でいろんなものを面白がったりしてるんだろうなと解釈していて、自分ではそんな可笑しいことをしている気はしていないのかなと思っていました。
– 納屋での水原哲とすずさんの会話について。
のん
すずさんが「ウチはこういう日を待ちよったかもしれん」って言うのが意外で。
旦那さんがいるのにちょっと心が揺れ動いているようなことを言うんだって思って、すずさんの気持ちの解釈に悩んでしまって。で、片渕監督にすずさんの気持ちについていろいろ質問しました。
片渕監督
原作のこうの史代さんに聞いたことなんですが、哲とすずさんは同い年で幼馴染なんだけど、すずさんは5月生まれで、哲はきっと早生まれ。
幼い頃はすずさんの方が身長も高くて、哲のことは弟みたいに思ってた時期もあったんじゃないかなと。
で、大人になって大きくなった哲を見て、すずさんは戸惑ったんだけど、それでもやっぱり幼い頃の気持ちも残っている。そういう関係として考えてみたらどうかと、のんちゃんにはアドバイスしました。
のん
それがすごい助けになって。だからあんなふうにリラックスして一緒に過ごしたりとか、膝枕とか、一緒にお布団入ってぬくぬくしたりとか、家族みたいに思っているからなんだなとすごい納得できました。
– 哲さんと納屋で過ごしたそのシーンがきっかけで、すずさんは自分の中の感情に気づいて、今まで閉じ込めがちだった自分の感情を外に出すようになり、以降、周作さんともちゃんと向き合って本当の夫婦になっていく。
それほど非常に劇的なシーンで、のんさんは、見事に演じられていたと思います。
のん
ありがとうございます。
– 最後のシーンですずさんが号泣するところがあります。最初、のんさんはなかなか泣けなくて、泣けるように工夫されたと聞きましたが?
片渕監督
録音している時、ミキサーの小原さんが「涙声になってねぇな」って言うんですよ。
「台詞回しはできているけど、最後は涙が鼻がつまった音が大事なんだ。」と。
で、録音ブースの中、のんちゃんを独りにして電気消して真っ暗にして。
そしたら後でのんちゃんに聞いたらそうしたことで演技に集中できたって。
のん
なんか、最初は泣くもんじゃないって思ってて。声だけで技術で表現するものなんだって思ってたんですよね。
ほんとに集中して涙流してやってたら「そうじゃねぇんだよ。実写じゃないんだから」って言われるのかなって思ってて(笑)
なんかバカにされるって思い込んでて。
片渕監督
それまでマイクの前で動いたりしてたら怒られてましたもんね(笑)
最初の頃ののんちゃんはTシャツとジーパンで来て、「動ける格好で来ました」って言ってたけど、指向性の高いマイクでの録音なので、「動かないでくださーい」って怒られて。
なので、のんちゃんは声だけで人物を作り上げるということに立ち向かいながらやってました。
– すずさんはハゲができてましたが、のんさんはそういうことはなかったんですか?(笑)
のん
それはなかったですね(笑)
– 作品で描かれている時代と今とが繋がっているということについて。
片渕監督
これはあちこちで言ってることなんですが、広島での上映会後、ある若いお客さんから「すずさんの喋り方が私のおばあちゃんとそっくりでした。おばあちゃんの喋り方なんだけど、声が若い娘だったので、私のおばあちゃんにも娘時代があったんだってすごいよくわかりました。」って言われたんです。
それを聞いた瞬間、のんちゃんの昔の広島弁がすごく良くできてたんだって気づくことができました。
目指していたところを達成していたんだと。
のんちゃんの声を通じて、そのおばあさんが若かった頃から現在まで時間が繋がったんだなぁ、それが演技の力なんだなぁと思うとすごく感慨深ったです。
– 最後にメッセージをお願いします。
のん
これから、長尺版も作られていくので、もっともっといろんな方々に観ていただけるチャンスかなって思っています。
今回の映画は、観てくださっている方もすごく強い気持ちで応援くださるので、製作者の一員かなって勝手に思っているので、是非一緒に広めてください。
よろしくお願いします。
片渕監督
長くするのは今、一生懸命頑張ってます(笑)
この映画は公開から600日近く経つんですが、ずっとずっとたくさんの映画館で上映してくださっていて、7月から8月もまたいろんなところで上映されることになっています。
それがほんとにわれわれにとって嬉しいことですし、映画館で支えられている映画ってものがまだまだ頑張っていけることになると思います。
僕らもまたどこかに出没するかもしれませんので、またよろしくお願いします。
トークイベント動画
フォトギャラリー
[写真:Ichigen Kaneda / 動画・記事:Jun.S]
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