永遠の1分。

【曽根剛監督インタビュー】「悲しいことから逃げることも大事」映画『永遠の1分。』

映画『永遠の1分。』(3/4公開)は、曽根剛監督が2013年頃から抱いていた想いを“映画”という形にしたもの。3.11について「感動だけじゃなくエンタメになっているんだったら観たい」という被災地の方々の言葉に後押しされて完成した。

本作は、3.11被災地のひとつである岩手県久慈市(NHK朝ドラ「あまちゃん」ロケ地)を主なロケ地として現地の協力の元制作が進んでいった。その途中、コロナ禍を迎えたことによって、意図せず3.11だけじゃなく、困難に立たされている世界の多くの人が前向きになれるヒントを与えてくれる作品に昇華した。“笑い”がもたらす癒しの力で困難や葛藤を乗り越えていく姿を描いている。

曽根剛監督 インタビュー

■辛い時こそ笑いが大事なんだ。

-本作制作のきっかけを教えてください。

曽根剛監督
3.11以降、何度かTV番組等の取材で被災地に訪れた時、自分が果たして被災地のために何をできるのかということを考えるようになって、私がやれることとしたら映画なのかなと漠然と思い始めたのがきっかけです。それは2013年頃でした。

永遠の1分。

曽根剛監督

-本作に登場するマイケル・キダさん演じるスティーブや、Awich(エイウィッチ)さん演じるレイコ役などは、曽根監督や、脚本の上田慎一郎さん自身の想いを反映させているように感じましたが、いかがでしょうか?

曽根剛監督
そうです。レイコのように、私も3.11があった直後は、今の仕事をやっている場合じゃないのではと逃げるようにアメリカまで行ったんです。当時、もう日本に帰るなという人もいましたし、一方、放射能汚染を気にして日本に帰れという人もいました。劇中にも出てきますが、お店に入る時日本人だとわかると放射能チェックされることはアメリカでもありましたし、もちろん、そういう風評被害は日本の方が一時期ひどい時もありましたけども。
そうしていろいろ考えさせられた中、やっぱり自分は映画作品と通してこの想いを表現するしかないという想いに至ったんです。

-物語はどのようなところから?

曽根剛監督
最初は、感動のドラマにしたいと思ってプロットを書いたんですが、それだと辛い思いをするだけの作品になってしまって、自分でも観たくないので何か違うものをと考えました。
3.11の映画というだけで自分も観たくないと思っていたんです。
そんな時、上田(慎一郎)さんから「コメディ映画を撮る話にしたらどうだ」という提案があって、実際その内容で書いてみたものの、それだと被災地の人には見せられないなと思ったんです。不謹慎で怒られるんじゃないかなと思ったからです。
実際、制作会社何社かに提案した時も、さすがにコメディはダメだろうと言われました。

-その後、今の物語でGOサインを出されたのは?

曽根剛監督
その後、宮城、岩手と訪れて、現地の方に「笑いの要素がある映画なんですけど」と、かなり勇気を振り絞って打診してみたら、「それが大事なんです。是非作ってください。むしろシリアスで辛い内容のものは私たちは観たくない。エンタメに寄せた作品だったら観たい。」という反応が返ってきたんです。
実際、被災直後の3月は、被災地の皆さんは悲しんでいたんですけど、春以降、阪神大震災を体験されたボランティアの方々が笑わそうとしてくることがあって、なんでそんなことをするのかと聞いたら、「私たちも笑いが大事だったから」と答えが返ってきたそうです。
そういうことがあって、秋頃からは、久慈市で演劇が始まったんです。被災を題材にしているんですけども、それでもクスっと笑えて、前を向ける内容になっている。その演劇でいろんな被災地をまわる活動をしているのを聞いて、そういうエンタメが前を向くためには大事なんだなということを認識させられました。そして、この映画を作っていいんだっていう想いになりました。
そして、企画が本格的に動き出したのが、2018~2019年頃からなんですけど、被災地の方々からは、もっと早くこういう提案がほしかったと言われました。

永遠の1分。

場面写真 ©「永遠の1分。」製作委員会

-今お話に出た演劇というのは、本作では、久慈市に実在する水族館のもぐらんぴあにて、「Over Again~水族館狂詩曲~」というタイトルで催されているのが登場しますがこれのことでしょうか?

曽根剛監督
はい。2011年の秋から毎年上演されている演劇です。公演ごとにちょっとずつアレンジされているそうで、何年分かの脚本を読ませていただいて、その中からいくつかピックアップして、映画の中では再構成しています。それは演劇の脚本を書かれている現地の小室さんに提案させていただいた上で、映画用に5分くらいの短いものにしていただきました。

■世界的なコロナパンデミックが本作を大きく変えた

-本作は、外国人であるスティーブの視点で描かれていますが、そうしようとされた理由は?

曽根剛監督
私がアメリカに行って、違う視点から見た日本という話をいろいろ聞いたからです。中には、日本全体が震災で大変なことになっているというイメージを持っている人もいたり、必ずしも正しく伝わっていない。
なので、日本人とは違う視点を映画に取り入れた方がいいんじゃないかと思ったことが理由です。同時に、レイコ目線は私に近かったりします。

-脚本は何度か書き直されたということですが、たとえばどういうところが大きく変わりましたか?

曽根剛監督
先ほど、感動寄り物語から、コメディ要素を入れたという話をしましたが、そこからさらに大きく変わったのは、2020年に入ってコロナ禍が起こってからです。こうした世界レベルのパンデミックが起こっている中、やっぱり映画を作っている場合か?と思わされる瞬間もありましたが、ただ、こういう時だからこそ、精神的に前を向けるようになるには、笑うことが大事なことのひとつなのは、3.11と同じじゃないかと考えました。
そう考えて、コロナ禍のことも取り入れて脚本を書き直せばと上田さんが提案してくれて、大きく変わりました。これで作品がとても良くなったなと思います。世界のいろんな困難に立ち向かう人たちを勇気づける作品に生まれ変わりました。

■Awichさんほどの適任はいない

-レイコ役のAwich(エイウィッチ)さんは映画初出演ですが、彼女の起用のきっかけについて教えてください。

曽根剛監督
Awichさんの背景を伺うと、レイコ役としてこれ以上の適任はいないと思ったからです。
彼女は被災されたわけではないんですが、旦那さんを亡くされて辛いことがたくさんあった時に、彼女自身が前を向くきっかけになったのが歌だったそうです。それはこの映画に出てくるレイコそのものです。

-劇中のAwich(エイウィッチ)さんが歌われている2曲は書き下ろしですか?

曽根剛監督
そうです。

永遠の1分。

■久慈市長「悲しいことから逃げることも大事なんだ。」

-主なロケ地である岩手県久慈市は、遠藤市長自身が先頭となってフィルムコミッション活動をされていますが、映画を作る側の立場から見て、それはどのように映りましたか?

曽根剛監督
最高でした。とても慣れていらっしゃって、完全にチームです。それは「あまちゃん」の影響が強かったそうです。
震災以降、久慈市も笑っちゃダメという空気感が続いていて、そこでみんなの雰囲気が変わってきた大きなきっかけは「あまちゃん」なんだそうです。そのおかげでみんな笑えるようになってきたという話を聞きました。
こういうドラマや映画はみんなを一致団結させて、笑えるようになるきっかけになるもので、とても大事だという共通認識を皆さん、持たれているようです。
遠藤市長にお会いした時に、「笑っちゃダメっていう風潮自体が良くない。悲しいことから逃げることがとても大事なんだ。それによって乗り越えられる。映画やドラマなどのエンタメもそのひとつだ。」というお話を伺いました。

-普通だと、それぞれのロケ地の撮影許可取り交渉を個別でやったりと大変ですが、久慈市の場合はいかがでしたか?

曽根剛監督
はい。そこは久慈市が一括して全部やってくれました。このフィルムコミッションの活動はこれが本業なんじゃないかって思えるほどすごい動きをされて、なにもかもが助かりました。

-劇中、久慈市に実在する、特大の鬼(おに)ぎりで有名な「鬼は内本店」の店員役で、自称・可愛すぎない海女さんとして現地で活動されている藤織ジュンさんが出演されてますね。

曽根剛監督
はい。久慈市民の方にエキストラをお願いする中で、セリフが多い役は一般の方は難しいんじゃないかということで久慈市から提案いただきました。

永遠の1分。

藤織ジュン ©「永遠の1分。」製作委員会

■とりあえず寝ること。

-いよいよスティーブが撮影を始めてから、現場で揉めるシーンが描かれていますが、多くの映画作品に関わってこられた曽根監督ご自身の経験ではいかがですか?実際の映画制作現場でもある感じでしょうか?

曽根剛監督
私自身が揉めることはないんですけど、揉めているのはよく見かけます。やたらとケンカしてるなとか。
劇中、撮影データが消えるというエピソードが出てきますが、これは私自身の実体験です。ある映画作品の撮影データを1日分丸々消してしまって、それは撮影で疲れ切っているからこういう不注意が起きるんだってみんなで話しました。

-そういう時、チームのモチベーションを復活させるために、心がけていることはありますか?

曽根剛監督
とりあえず寝ることですね(笑)
実際そうで、過酷すぎて時間がぜんぜん無いと、スケジュールが押しまくってる状況では、食事も睡眠も摂らなくなる。
でもそういう時こそ寝るのが大事。とりあえずみんな寝て、そして起きてから改めて考えようと。そうすると、みんなリフレッシュされるんです。
これはこの映画のテーマと似ているかもしれませんが、ある問題からいったん逃げることも大事なんですよね。

■実話に基づく劇中映画

-劇中でスティーブたちが撮影している映画『311, Living On』の内容の着想は?

曽根剛監督
一番影響を受けたのが気仙沼で、当時市役所で働いていた方から伺ったお話です。
その方も震災の被災者なんですが、被災当初、毎日遺体を看取ったり、いろんなところでガレキの山が問題になっている。そういう毎日を過ごしいる中、その方自身も毎日死にたいと思って自殺しようともしたそうです。
そんな中、阪神大震災経験者のボランティアの方たちが無理やり笑わそうとしてくる。最初はもちろん笑えなかったけど、なんで笑わそうとするのか疑問に思う中、徐々に笑えるようになってくる。実際、無理やりにでも笑うことで、心が軽くなったそうなんです。
そういった体験談を取り入れています。忍者のくだりだけは完全な創作ですけど(笑)

永遠の1分。

場面写真 ©「永遠の1分。」製作委員会

-なるほど、本作自体も、劇中で登場する映画作品も、ある種のドキュメンタリーの性質も持っているということですね。

曽根剛監督
はい。スティーブとレイコは私たち自身の思いを投影させていますし、劇中映画についてはほぼ被災者の方々の体験談に基づいています。

■最後にメッセージ

-世界的なコロナ禍もそうですし、主人公・スティーブの母国アメリカでも、2021年は竜巻の大災害が起きました。そういう意味で、本作は3.11を題材にしつつも、3.11だけにとどまらない汎用的なメッセージ性を感じました。改めて、曽根監督から本作をご覧になる方へのメッセージをお願いいします。

曽根剛監督
3.11を題材にしていますけども、コロナ禍を含み、世界のいろんな災害や問題に直面した時に、人はどうあるべきかということを、この映画を通して伝えたいという想いが一番です。同時にそういう想いを忘れずに伝えていきたいとも思っています。その想いをタイトルの『永遠の1分。』にも込めています。災害が起きたのは瞬間のことであっても、その時の気持ちを永遠に忘れず持ち続けたまま、人は生きていくということを伝えたいです。

永遠の1分。

■インタビュー番外編

今回のインタビューが始まる前、記者のニコン製カメラに関心を示され、ご自身のこれまでのカメラ歴を語られた曽根監督。玄光社からも、「低予算の超・映画制作術 『カメラを止めるな!』はこうして撮られた」という映画制作の観点で書かれた本を執筆されている監督に、少し専門的なお話も伺った。

-玄光社さんがされるような質問をします(笑)。本作は映像が綺麗でしたが、使われたカメラ機材をよろしければ教えてください。

曽根剛監督
機種もメーカーも入り混じっていて、例としてはよろしくないんですが(笑)、Panasonic GH5とGH5Sがほとんどで、あとは、SONY FS7とFX3です。

-もうひとつ、映像制作に興味ある人向けの質問ですが、冒頭、アメリカでのスティーブらがいるオフィスのシーン。ここで、PCの画面に写っているソフトウェアは、DaVinci Resolve(ダヴィンチ・リゾルブ)ですか?

曽根剛監督
そのとおりです。そして写っている映像は昨年公開した私の作品のクリップです。

曽根剛 プロフィール
ロサンゼルスでプロデュース・監督した初長編映画『口裂け女in L.A.』(15)、『9つの窓』(15)が2016年に劇場公開。
その後、台湾、ヨーロッパに渡り、『台湾、独り言』(17)、『パリの大晦日』(17)を手掛ける。韓国で制作した『ゴーストマスク~傷』(18)はモントリオール世界映画祭に、『透子のセカイ』(20)が上海国際映画祭に招待される。
近年では、『ゴーストダイアリーズ』(20)や、全編香港ロケで制作した日本・香港合作『二人小町』(20)などを手掛ける。
公開待機作として『リフレインの鼓動』(21)がある。『カメラを止めるな!』(17)では撮影監督を務め、第42回日本アカデミー賞優秀撮影賞を受賞した。

[写真・インタビュー:桜小路順]

映画『永遠の1分。』

STORY
コメディが得意なアメリカ人の映像ディレクター・スティーブは、3.11のドキュメンタリーを作るために来日するが、被災地を訪れた際に見かけた演劇の舞台をきっかけに、コメディ映画を作ろうと考える。
取材を重ねる中で被災状況を目の当たりにし、かつ週刊誌に誹謗中傷の記事が出るなど、暗雲が立ち込めてしまう。しかし、彼には映画を撮らないといけない理由があったのだ。
一方、3.11で息子を亡くし、ロサンゼルスに移り住んだ日本人シンガーの麗子。歌のせいで息子を失ったという罪悪感に苛まれ、再びシンガーとして活動することや日本に残してきた夫と向き合えない年月を過ごしていた。ある時、彼女は夫からの手紙の中にあるものを見つけるが…。

 

出演:マイケル・キダ Awich 毎熊克哉 片山萌美 ライアン・ドリース ルナ 中村優一 アレキサンダー・ハンター 西尾舞生 / 渡辺裕之
監督:曽根剛
脚本:上田慎一郎
音楽:鈴木伸宏、伊藤翔磨
製作:映画「永遠の1分。」製作委員会
制作プロダクション:源田企画
特別協力:久慈市
2022年/日本/97分/カラー/シネスコ/5.1ch/
(C)「永遠の1分。」製作委員会
公式サイト:eien1min.com

3月4日(金)、全国公開

永遠の1分。

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