アボカドの固さ

【主演、監督インタビュー】俳優本人の失恋実体験。映画『アボカドの固さ』

コロナ禍により公開延期となっていた映画『アボカドの固さ』が、5月23日(土)より、オンライン映画館「仮設の映画館」にて2週間限定上映される。主演の前原瑞樹自身の失恋実体験物語だという本作について、城真也監督と共に、作品に込めた想いと見どころについてお話を伺った。

本作は、第41回ぴあフィルムフェスティバル コンペティション部門PFFアワード2019にて、ひかりTV賞、第20回TAMA NEW WAVE ある視点部門入選など、自主映画ながら高い評価を得ている。
映画のタイトルの名付けには、現代短歌の先駆け的存在である俵万智の短歌の存在が大きく、俵万智本人からも映画に対するコメントが寄せられている。

物語は、主演・前原瑞樹自身の失恋実体験がベースとなっており、5年付き合った恋人に振られるも、どうにかヨリを戻したいと愛に縋る男の姿を、城真也監督が絶妙な距離感で描いている。

アボカドの固さ
※上映情報、トークイベントについては、本記事文末を参照ください。

インタビュー

アボカドの固さ

城真也監督/前原瑞樹

■交際5年。企画・主演・前原瑞樹が別れを告げられるまで。

映画『アボカドの固さ』の物語のベースとなった、主人公で本人役の前原瑞樹さんの失恋実体験について、まず振り返ってみる。

アボカドの固さ

城真也監督/前原瑞樹

– 5年間の交際は、前原さんが何歳の頃の出来事だったのでしょうか?

前原瑞樹(主人公&本人・ 前原瑞樹 役)
20歳になる直前、大学2年から、25歳の誕生日を迎える1か月前くらいの5年間ですね。
長いですよね。ちなみに現在の年齢は27歳です。

– 当時、別れを告げられる予感はありましたか?

前原瑞樹
予感は…あったと思います。なんとなく上手くいっていない感じがしていました。田舎に帰ったり、撮影に行ったりで、彼女と一か月位会えていなかったんです。久しぶりに会ったデートでフラれた感じでした。

– 失恋を映画にする・したいというエネルギーのようなものは、あったのでしょうか?

前原瑞樹
なんというか、僕自身は失恋を映画にしたかったわけではないんですよ。城くん(監督)と映画を作りたいねって、その企画の話をしていた時に、フラれたことの失恋相談をしていたんです。「このあと、どうすればいいと思う?」とか、「ヨリって戻せるのかな?」とか、実は新しい人を好きになっていたんですけど、「脈が無さそうなんだよな」とか、下世話な話をしていました。
城くんが言うには、そういう前原くんが面白いから、それを映画にしたいっていわれました。僕としては、すごく驚いたんです。こんなものを映画にしてくれるんだって。僕自身、自分の話をするのが好きだし、面白がってくれるのは嬉しいので、それでやってみようという感じでした。

– 前原さんと、城監督が出会ったのはいつ頃なんですか?

城真也監督
僕の前作に、小学校を舞台にした映画『さようなら、ごくろうさん』がありまして、前原君に若手教師役として出演してもらったのが出会ったきっかけですね。
2017年のPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入選している作品なので、撮影したのは2016年になりますね。そこで気が合って、次は主演で一本、映画を作りましょうかっていう話をしました。

前原瑞樹
それで、実際に映画を作ろうとなったのが失恋したときですね。失恋したばかりの“旬”な時にタイムリーに話をして、3、4か月後には映画にしていましたね。
いいタイミングというとおかしいですけど、作ろうと思ったエネルギーをそのまま注ぎ込むことできました。

城真也監督
当時は特に語りたい物語があったわけではありませんでした。制作の出発点は、前原瑞樹が魅力的に見える役を演じてもらうことの、一点のみで。
そこにたまたま前原くんの失恋の物語があったので、前原くんが本人役で出演する映画になりました。
脚本化する段階で山口慎太朗君に参加してもらい、三人体制で脚本作業を行なっています。
はじめに前原君の体験した出来事をフラれた日から一日ごとに話してもらったんです。それを山口君が書き起こし、そのディティールがある程度まとまった段階で、筋をつけていくという進め方をしました。

アボカドの固さ

場面カット

■タイトル『アボカドの固さ』と俵万智の短歌の存在

城真也監督
“時間”がテーマのひとつでした。“フラれた後の男が過ごす日常”を描きたかったんです。
“フラれた後にどんなドラマがあったのか”ではなく、“フラれた後にどんな日常を過ごしたか”。
それは、別れを告げられたデートの帰り道にトボトボ歩くことだったり、部屋でひとりで過ごす時間の静けさや、ひとりで買い物に出かけて何かを買うとか、映画の場面としては退屈だけど、普通の映画では描かないような“時間”にフォーカスすることを目指しました。そこから派生して、物が腐っていくだとか、時が経って組み立てられなかったソファーが組み立てられるようになったとか、時間の不可逆性というテーマも生まれました。そんなことを考えながら脚本を作っていたとき、前原くんが俵万智さんのある短歌を教えてくれました。

城真也監督

城真也監督

– 俵万智さんの短歌「アボカドの固さをそっと確かめるように抱きしめられるキッチン」から着想を得た…と書かれていましたね。以前から知っていたわけではないんですか?

前原瑞樹
映画の脚本を書いているときに、俵万智さんの短歌に出会いました。本当に偶然の出来事でした。脚本の流れはできていて、もっと面白くできたらいいなと思っていて、もうちょっとモチーフとかテーマが掘り下げられたらとか、新しく出てきたらいいなと思っていました。その時に、この短歌に出会いました。
実際に、しみちゃん(5年付き合った元恋人・清水緑)がアボカドのことを好きだったり、アボカドの熟れ具合を確かめるのが得意だったなと思い出したりして、その感じと、自分がそれを気づけなかったとか、いろんなことをテーマに出来るかもしれないと城君や山口君たちに話したんです。そうしたら二人が面白がってくれて、それを少し妄想チックに作品に取り入れてくれたっていう感じですね。

前原瑞樹

前原瑞樹

城真也監督
「アボカドの固さをそっと確かめるように抱きしめられるキッチン」という短歌の持つ幸せなイメージと、それが失恋によって失われてしまったことを話してくれたよね。

前原瑞樹
キッチンは僕としては、幸せの象徴だったんです。彼女と一緒にご飯を作ったり、食卓の幸せのイメージを俵万智さんの短歌を読んだときにあらためて感じました。
自分がキッチンに一人でいるだけだと、その幸せを確かめることができないなとか。すごい温かいものと、自分が経験できていない冷たい感覚とがあって、すごいいいなと思いました。映画としても、何かが出来るかもしれないと、それを上手く入れられたなと思っています。

城真也監督
作品紹介の記事に、短歌との出会いが映画の着想のきっかけと書かれているのですが、“着想”というと少し違うかもしれません。

– すると、映画のタイトル『アボカドの固さ』が名付けられるのは、この短歌と出会った後になるんですね。

前原瑞樹
そうです。しかも、映画祭で発表する直前、ギリギリで決まりました。本当は違うタイトルがあったので、そのタイトルのイメージをずっと持って、脚本も台本も書いていました。
世の中に出るっていうタイミングが、ぴあフィルムフェスティバルで、それが僕らの映画の初めてのお披露目だったんです。その前日にタイトルを決めましたね。

城真也監督
そうだったね。脚本の時に一度、短歌には出会っているんですけど、撮影・編集を経て、最後の最後にタイトルを決める段階で、再び出会い直したという感じです。「そういえば、あの短歌の存在って結構大きかったよね」と話して、タイトルが『アボカドの固さ』に落ち着きました。

– 俵万智さんにコメントを戴いていますがどういったやりとりがありましたか。

城真也監督
短歌の一部をタイトルに使うという許可をいただく意味もあり、俵万智さんにお手紙を書きました。もちろん作品を見てもらえたらなと思っていたのですが、映画を気に入ってくださって、「応援団のつもりで、コメントさせていただきます」と、すごく温かく見守っていただいています。

前原瑞樹
いただいたコメントは、柔らかい言葉だなって思いました。すごい嬉しかったです。自分達の映画がここから広がっていくんだって思いましたね。

アボカドの固さ

■3人一緒に映画を観ながら、本作の構想を練った

– 構想段階では、前原さん、城監督、脚本の山口さんの3人で進めていたのでしょうか。

前原瑞樹
三人で一緒に映画を観たり、本を読んだりしていました。ホン・サンス監督の『気まぐれな唇』(2002)とか、エリック・ロメール監督の『緑の光線』(1986)とかは、僕らは好きで映画作りの参考にしています。
ある程度、脚本を書き進めながら観ていたんですけど、3人でしゃべりながら映画を観るって、あまりないですよね。普通は、きちんと映画を観なきゃいけないじゃないですか。
それを3人でしゃべりながら観るっていうのが、すごく楽しくて、ずっとオーディオコメンタリーをしているような感覚でした。そういったことをやりながら読み解いていく感じが楽しくて、その時の考察を話し合うことが『アボカドの固さ』は影響を受けていますね。
先ほどのどちらの作品もタロットカードだったり、占いのシーンがでてくるんですけど、恋愛ってやっぱり占いが付きものなんだって思って、自信をもって、自分たちの映画にも入れられると感じましたね。

前原瑞樹

前原瑞樹

城真也監督
『マスター・オブ・ゼロ』も観たよね。

前原瑞樹
『マスター・オブ・ゼロ』は、Netflixのドラマです。エピソードとなる話は、そのシーズン2のエピソード5になります。
主人公が、好きかもしれないという女の子とタクシーに乗るんですけど、彼女は途中で降りてしまうんです。そこから、自分が家にたどり着くまでの車内のシーンが長回しで、何の動きもないんです。ずっとタクシーの座席に座っていて、さっき降りた子からメッセンジャーが届いて、それをみて笑ったり、あの子と一緒に帰りたかったなとか、一緒にいたかったなとか、もしかして好きかもしれないなとか、頭の中で渦巻いているのが、ただ座っているだけなのにめちゃくちゃ見えるんですよ。それをみんなで「すげー!」って言っていて、それを僕らは、「宇宙の様に広がる無の時間」って題したんですけど(笑)

城真也監督
ダセえ(笑)

前原瑞樹
「宇宙の様に広がる無の時間」、それを描きたいって言っていて、僕が失恋して、ベッドの上で寝ているだけでも、ちゃんと、その僕の気持ちが動いている。動いていれば、映画として観れるんじゃないかっていう挑戦でもあったよね。
だから、ひとりで蕎麦を食っている姿を見て、そこから何かしら読み取ってくれるんじゃないかって思いました。
そこまでに重ねてきたものがあれば、丁寧に積み重ねていけば、ただ蕎麦を食っているだけでも、ドラマになるんじゃないかって。いろんなことを挑戦できるなって思って、そこから勇気をもらいましたね。
映画を手術するというか、解剖していくように観ていくっていうのがなかったので。映画の授業だったら、そういうのもありますけど。まるまる一本、きちんと時間を使って観ていたので、すごい面白かったですね。

■キャスティング秘話

– 男性陣は実名で出演されていたりしますが、女性はそうではなかったり、どういった考慮をされましたか?

前原瑞樹
男性陣は皆、実のバイト仲間だったんです。芸人だったり、役者だったり、面白い人が集まっているので、違う役者を集めて芝居をするより、多分、芝居というより、そのまま出来るから、そのままみんなでやっちゃおうよってなりました。
そういうことを楽しんでくれる人達だったので、映画の中の飲み会と同じことを実際にしていましたし、そのまま実名で使わせていただきましたね。

城真也監督
反対に女性の役には、俳優さんにオファーを出しました。当たり前ですが、前原くんの実の恋人に役を演じてもらうことはできません。そこをドキュメンタリーにするといろんな人を傷つける映画になってしまうと思ったので。その部分はフィクションの力を借りて描くと決めました。
映画には主に6人の女優さんが出てきます。キャスティングした方々は、主に演劇や舞台で活動されている女優さんです。前原君と共演経験がある方も多く、彼のキャラクターをすでに知ってくれているので、僕たちがやりたいことをすぐに理解してくれました。

アボカドの固さ

場面カット

■同居している姉の部屋を機材置き場に

– 劇中で登場する部屋は、前原さんの実際の部屋だと伺いました。

城真也監督
はい。前原君の部屋は映画の舞台でもあるので、常にきれいにしておかないといけなかったですね。

前原瑞樹
ちなみに、姉(*)が別の部屋で同居しているんですが、今回の撮影時は、姉の部屋に撮影機材を置かせてもらいました。ルールとして、帰ってきたらすぐ寝られるように、姉のベッドには物を置かないようにということで。
*映画『愛がなんだ』プロデューサーの前原美野里さん

城真也監督
2~3週間もの間、大量の機材をお姉さんの部屋に置かせてもらっていましたね…。

前原瑞樹
姉を優しいなと思いますね。協力してくれていました。

■慣れない映画の宣伝

– 多くの自主制作映画は宣伝も自前でされることが多いですが、本作の宣伝に関しても、みなさんで意見を出し合って行っているんですか?

前原瑞樹
ありがたいことに、映画を作っていた中心メンバーの、山口君(脚本)、井上君(プロデューサー)、新藤さん(カメラマン)とか助監督の子たちが配給・宣伝の活動を今も一緒にしてくれています。
一緒に楽しんでやってくれていて、本当にありがたいなと思っています。お金もないので、出来ることをやって行こうって、自分たちが少しでも映画を知ってもらえるきっかけをつくれるように、やるしかないねって話合っています。
本当はチラシ配りとかもしていけたらいいんですけど、コロナウイルスの影響で、この時期そういったことをしても受け取りづらい・受け取ってもらえないと思うんですよね。
どうやったら映画に触れてもらえるか、ドキュメンタリーやラジオだったり(*)。結局SNSなんですけど、みなさんが少しでも楽しんでもらえるようにと思っています。
ドキュメンタリーは城君が考えていましたね。配給・宣伝の裏側をうまくドキュメンタリーにできたらいいねって。それをやる力を僕らは持っているので。
*「ドキュメント『アボカドの固さ』」、「アボカドの固さRadio」として、公式YouTubeチャンネル(リンク)で配信中。

城真也監督
宣伝活動っていろいろ大変で面倒くさいんですよ。作業も多いし、慣れないことだし、暗中模索で進むので疲れるし嫌だなと思っていたんですけど。その様子を撮れば、それはそれで面白いし、宣伝にもなるしと思ってやっています。

アボカドの固さ

場面カット

■本作の見どころとメッセージ

前原瑞樹
この映画を作るとなった時のテーマとして、“時間”というものがあって、僕が実際に失恋して、小説を読んだり映画を観ていて、救われたこともあったし、救われないこともあったんです。立ち直り方を教えて欲しいというか、どう過ごしたのかを知りたいわけです。
失恋した男がその日に何をして、次の日に何をしたかっていうのを知りたかったんです。普通に立ち直れないと思って。
5年間付き合っていた彼女にフラれたことの大きさが、とんでもなくて、参考書・ガイドのようなものが欲しかったんです。
この映画は、そんなガイドになっていると思うんです。フラれた人にも優しいガイドになっていると思います。
それをひとつの楽しみ方として、観てもらえたらなと思います。懐かしんでもらってもいいですし、これから失恋する人にも、結局全人類に対してなんですけど、恋愛なので、何が起こるかわからないわけで、楽しんでもらえたらいいですね。

城真也監督
前原瑞樹が、映画というフィクションを通して失恋を乗り越える、俳優自身のドキュメンタリーでもあると思ってます。主人公に感情移入できるか、できないかで観てもらうのもよいですが、前原くんの体験を他人の目線から冷たくそっけなく撮った映画なので、人間観察する感覚で楽しんで観てもらえたらうれしいです。

前原瑞樹
とにかく反応して欲しいですね。素通りされて行くはずだったものをこれだけほじくって、本来、ただ自分が抱えて終わるだけだった失恋が、こんなに大きく、多くの人に聴いてもらえたり、観てもらえたりするわけで、そのことを僕は嬉しいというか、面白いと思っています。折角だから、素通りせずに、僕らがほじくった穴を観て欲しいですね。

アボカドの固さ

[聞き手・写真:Ichigen Kaneda]

映画『アボカドの固さ』

<STORY>
ある日突然、5年付き合った恋人・清水緑に別れを告げられた俳優・前原瑞樹。
どうにかヨリを戻したい一心で、周囲に失恋相談をして回り、ひとまずは1ヶ月後に迎える25歳の誕生日まで待つと決める。
しかし、待てど暮らせど緑からはなんの音沙汰もない。
復縁への淡い期待を抱きながら右往左往する男の<愛と執着の30日間>。

出演:前原瑞樹、多賀麻美、長谷川洋子、小野寺ずる、空美、並木愛枝、兵藤公美、山口慎太朗、西上雅士、日下部一郎 ほか
監督・脚本・編集:城 真也
脚本:山口慎太朗、前原瑞樹
制作:吉田大樹、石川泰地/製作:井上 遼
公式サイト:avokatas.com
公式Twitter:@avokatas

予告編

■上映情報
配信先:オンライン映画館「仮設の映画館」(http://www.temporary-cinema.jp/)
配信期間:5/23(土)〜6/5(金)
※夏には劇場公開も予定されている。

■トークイベント
配信日時:5月30日(土)
登壇者:城真也(監督)、前原瑞樹(主演)
ゲスト:俵万智(歌人)
実施場所:映画『アボカドの固さ』公式YouTubeチャンネルでライブ配信(予定)。無料、登録不要。
※配信内容・日時・配信先は変更になる可能性あり。そのほかにもいくつかトークイベントの配信を予定されており、下記の公式サイトで最新情報要確認。
公式サイト:avokatas.com
公式Twitter:@avokatas

場面カット

関連情報

城真也監督作品『さようなら、ごくろうさん』(2017/第39回ぴあフィルムフェスティバル アワード入選作品)が期間限定で、Vimeo上(リンク)にて公開中。

 

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