大人も子どもと一緒に考えよう。のんが優しく語りかける動画「しんがたコロナってなんだろな」
一部地域で緊急事態宣言が解除されつつも、まだまだ予断を許さない新型コロナウイルス。そんな今の状況を子ども向けに、女優・のんが優しく語りかける動画「しんがたコロナってなんだろな」がYouTubeに公開されている。“家族の手作り”というこの動画の制作のきっかけについて、テレビ番組制作会社に勤める後藤氏に話しを伺った。
本動画のポイントは、「子どもたちに一方的に指示をするのではなく、子どもの自主性を促す。そのためには大人も一緒に考える姿勢が大切」にある。そして、そのためには大人も不確かな情報に惑わされないこと。
本記事では、動画制作の経緯や、そこに込められた意図、そしてのんさんキャスティングの経緯などについて紹介する。
しんがたコロナってなんだろな~きみだからできること
まずは、のんさんの優しい朗読が耳に残るこの動画をご覧いただきたい。
前編|しんがたコロナってなんだろな【えほん】
後編|きみだからできること【えほん】
対象:幼児期~小学校低学年
朗読:のん
絵:後藤裕子
色・後藤晶代
文・音楽:後藤遷也
監修:国立成育医療研究センター 小児科医 田中恭子医師
※英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・中国語バージョンも公開中。
後藤遷也さんからのメッセージ
「新型コロナのせいで自分たちは何もできない」とイライラしたり、ふさぎこんだりしているような子どもたちに、「自分たちにもできることがあるんだ」という希望や勇気を感じてもらえたらうれしいなと思っています。
■家族手作りの動画
本動画を制作したのは、NHKエンタープライズ社(以下、NEP)情報文化番組ディレクターの後藤遷也氏。NEP社員の業務としては、NHKの各種番組制作に携わる。
本動画制作のきっかけは、取材を通して知り合った国立成育医療研究センターの田中恭子医師から、「子どもに向けて、新型コロナとは何で、どうすれば予防できるのかを説明するコンテンツが何か作れないか」と提案を受けたことが始まりで、後藤氏個人としての活動だったという。
そして4月16日に公開された第一弾の動画は、田中医師監修のもと、後藤氏がシナリオ執筆・作曲・演奏、後藤氏の母親の後藤裕子さん(68)がイラスト、義姉の後藤晶代さん(34)が着彩を担当という完全ボランティアで制作された。
フランスに留学して絵を学んだ経験のある裕子さんのイラストは、すべて手描き。それをコンビニでスキャンしたものをメールで後藤氏に送ってもらったそうだ。晶代さんはグラフィックやジュエリーのデザイナーとして活動中。
■のん朗読の経緯
そうやってボランティア制作として公開された動画は、後藤氏の勤務するNHKエンタープライズが評価して、会社の事業として採用、より多くの方にメッセージが伝わるように展開することになった。そして、動画に訴求力のある著名人のナレーションを入れたバージョンを作るというアイディアが出た際に、のんさんに白羽の矢が立ったという。
その理由について、後藤氏は、「幅広い世代に大きな知名度があり、声の演技としての出演の実績も確かなものがおありで、かつ、あの状況の中で、ご自身の公式サイトやSNSを通して様々な情報発信をされていた方でもあったので、ぜひのんさんにお願いできないかと思いました。」と語る。
■子どもに優しく語りかけるように
朗読収録にあたって、後藤氏はのんさんに「ご親戚などに小さなお子さんがもしいらっしゃったら、その子に優しく語りかける様なイメージで読んでください。ひとつのセンテンスを読み終わったら、その内容を子どもが受け取ったな、浸透したな、と感じられるくらいの間をいったん置いてもらってから、次のセンテンスへと進んでください。」という演出指示を出したという。
それに対して、のんさんは「(私が知っている子には)いつも非常に元気よく接しているので、優しく語りかけるというイメージがあまりないかも…」と苦笑いしつつも、いざ収録本番になると、「最初からのんさんのために書いたんだっけ、と錯覚するくらい、ご自分の言葉の様に読みこなされてました。」と後藤氏は驚いたことを振り返りつつ、
また、「特に前編は、“しんがたコロナってなんだろな”というタイトルに引っ掛けて、“だな”、“な”という語尾を多用する独特なテキストになっていたのですが、それがかえってのんさんらしさにマッチしてくれて、良い雰囲気になったのではないかと感じています。」とも語る。
■大人からの一方通行なものにしない
なんどもやり直した構成
本動画のポリシーとして、田中医師からは、「この動画を大人からの一方通行的なものではなく、この非日常的な体験を逆に、子どもの健全な発達を促す機会としたい。」という指標が提示された。
ポイントは、「子どもが積極的に、自分から、自律的に衛生的な行動を取れるようになることを促すこと」。
子どもに、自発的に「やれる」「できる」というメッセージを繰り返し発するように、ということを徹底して、田中医師の監修の元、後藤氏は構成をなんども練り直していく。
それはたとえば、次の修正例でも見て取れる。
<Before>
「おうちにいることがふえたなら、おとうさんおかあさんをおてつだいしてみよう そうしたらきっとよろこんでくれるよ」
<After>
「おうちにいることがふえたなら、おとうさんおかあさんをおてつだいしてみよう どんなことができそうかな?」
後藤氏は、「嘘のない範囲で、子どもたちが恐怖感を持たずに受け入れられるようなストーリーとなるよう、新型コロナウイルスに関する情報をひとつひとつ抽象化していくという難しい作業の連続だった。」と、動画の構成の過程を振り返った。
■大人も不確かな情報に惑わされない
「子どもたちに大人が決めたことを一方的に指示するのではなく、子どもと一緒に、家族でルールを決めていくこと」が肝要だと、田中医師は語る。
そしてそのためには、「大人の皆様も、不確かな情報に惑わされず、冷静にこの事態に対処することが望ましい」と田中医師は強調する。(引用元:しんがたコロナってなんだろな〜子供のための新型コロナ予防 田中医師からの言葉)
子どもたちにわかるように説明するには、まず、大人が深く理解している必要がある。そのことは、かつて、NHK総合の『週刊こどもニュース』という番組で、子どもたちにわかりやすくニュースを伝えるためのノウハウを培ったこととして、池上彰氏は、自身の著作「伝える力」で、そう述べている。
そして、大人が、深く理解するための第一歩として、不確かな情報に惑わされないことも大切であろう。
昨今、“フェイクニュース”という言葉がよく言われるので、「自分はダマされない」と思っている人も多いと思うが、数値が示す事実はそうではない。
これについては、先月(2020年4月)に放送された「NHKスペシャル デジタル VS リアル 第1回 フェイクに奪われる“私”」で衝撃的なことがデータと共に紹介されている。
Twitterでは、リアルニュースに比べて、フェイクニュースは20倍の早さでまたたく間にリツイートされるという。その理由は、「嫌悪感」「驚き」「怒り」に、人々は直情的に反応してしまうからだと番組では紹介していた。
事実、新型コロナウィルスについても、すでにいくつかのフェイクニュースが出回った。
また、テレビの情報番組などでも、いろんな専門家やコメンテーターたちがコロナ禍について、さまざまな意見を語るため、何が正しい情報なのか大人でも把握が難しい状況ではある。
ただ、そういう状況であることを改めて認識し、直情的・感情的に反応するのではなく、一呼吸置いて、子どもと一緒に大人も考えてみることが大切なのかもしれない。
■「しんがたコロナってなんだろな」制作を振り返って
テレビ番組制作業務に携わる後藤氏の目線から、今回のYouTube向け動画制作を通して次のように振り返っていただいた。
NEP情報文化番組ディレクター 後藤遷也
私は普段はNHK BSプレミアムの特集番組や、NHK総合のレギュラー番組の制作をディレクターとして担当しており、会社の事業としてYouTube動画を制作したのは今回が初めての経験だったのですが、率直な感想として、テレビ番組と比較した時の、企画してから世に出せるまでの早さと簡単さには驚きました。
テレビ番組の場合は、まず大勢の人々が制作に関わっているので、企画の方向性にせよ、実際の内容にせよ、ひとつひとつの意思決定に対して毎回一定の時間がかかります。
また、公共の電波に載せられるコンテンツになるためには、技術的な面において、音声のレベルから映像の輝度に至るまで、非常に細かく決められている条件をクリアしなければなりません。
しかしYouTube動画の場合はそういうことがなく、同じことをテレビ番組でやろうとしたら、恐らく倍以上の時間がかかっただろうな、と思います。
加えて、今回はなるべく早く出すことに加えて、繰り返し見てもらうことに意義のある内容だったので、その意味でもテレビよりもYouTube動画向きでした。
スピード感・リピート性・手軽にどのデバイスでも見られる性質という観点で、災害時をはじめとする非常事態の際には、今後こうしたネット動画の果たす役割は大きくなっていくのではないかと、個人的には思いました。
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