【佐藤監督インタビュー】“新宿タイガー”という男。ドキュメンタリー映画『新宿タイガー』
新宿で40年以上、虎のお面を被ってド派手な格好をし、新聞配達をしている男、人呼んで“新宿タイガー”。
彼を受け入れた新宿という街が担ってきた重要な役割に迫ったドキュメンタリー映画『新宿タイガー』が2019年3月22日より公開されている。
「“新宿タイガー”の心意気のようなものは受け継いでいきたい」と語る佐藤慶紀監督に本作についてお話を伺った。
“新宿タイガー”の心意気を受け継ぐもの
1.新宿タイガーとの出会い
– 佐藤監督が、タイガーさんを知ったのはいつですか?
佐藤監督
タイガーさんの存在は映画を撮らないかと言われるまで知りませんでした。
東京に来て、もう10年くらいになるけど知らなった。
今回、配給してくださるプロダクションの小林さんが以前からタイガーさんの姿を見て気にされていて、「タイガーさんのドキュメンタリーを撮るのは面白そうじゃないですか。」と声をかけていただいたことが、タイガーさんを知るキッカケになっています。
– 出演交渉はどのようにされましたか?
佐藤監督
小林さんにすすめていただきました。
たまに彼に会うと、「タイガーの携帯電話の番号をゲットしました!」なんていう報告をしてくださいました。
– 監督は映画を撮り始めるまで、タイガーさんには会ったことがなかったんですね。
佐藤監督
そうですね。タイガーさんには会ったことも、見たこともなかったですね。
でも、写真を見せてもらって、すごいインパクトだったので、タイガーさんのことを知りたいと思いました。
タイガーさんのことを調べてみると、もう45年以上も新宿での生活をしている・活動を続けているということで、ものすごく興味がわいて、ますます知りたくなっていきました。
– 見た目がかなりのインパクトですものね。では、実際にお会いした時の印象はいかがでしたか?
佐藤監督
初めて会うときに、新宿アルタ前で待ち合わせました。
実際にタイガーさんを目にしたときは、正直、怖かったですね。
– 映画の中でも、新宿の街を歩く人たちが“怖い”と、口にしていましたが、監督もそれと同じ印象を持たれたのですね。
佐藤監督
はい。タイガーさんは、独特の空気を醸し出しているので。
– そうでしょうね。写真だけしか見たことがないところから、実物を目の当たりに、しかも、新宿アルタ前だなんて。
佐藤監督
そうなんですよ。タイガーさんて、いろんなぬいぐるみを身に着けているじゃないですか。
それによって身体も大きく見えるんですよね。
– タイガーさんの身長は、どれくらいなんですか?
佐藤監督
タイガーさんの身長は高いと思います。175cmくらいあるんじゃないかな。
2.タイガーさんを知る人たちへのインタビュー
– 映画の中で、タイガーさんのことをよく知る方たちにインタビューをされていますが、その方たちにはどのように調べたり、ご紹介をうけたのですか?
佐藤監督
タイガーさんに紹介されたというよりは、タイガーさんに初めて新宿ゴールデン街に連れて行ってもらった時に、その店の方から次々に紹介を受けたといった感じですね。
– 監督が初めて新宿ゴールデン街に足を踏み入れたのは、タイガーさんがキッカケなんですね。
佐藤監督
そうなんです。実はタイガーさんに連れていかれるまで行ったことがなかったんです。
– ディープな場所ですよね。
佐藤監督
そう。そしてタイガーさんに似合う場所ですね。
– では、映画の作りそのまま、そのものというか、タイガーさんが通う店、知る人の伝手をたどって、いろんなところにタイガーさんのことを聴きに行くっていう感じだったんですね。
佐藤監督
タイガーさんのことを聴きに行った先で、どうしてこの格好をしているのかがまず聴きたかったんです。
でも、この格好の理由に関しては、タイガーさんが言う通り、新宿の鬼王神社でマスクを見つけた話をみなさんおっしゃっていたりとか。
みなさんがいうには、タイガーさん自身はプライベートなことはあんまり話さない人だっていうことなんですよね。
3.映画製作にあたって、タイガーさんに密着した時間
– タイガーさんのコメントに“3時間の打ち合わせが3回。去年は36回密着され…”というのを目にしました。撮り始めたのはいつごろからですか?
佐藤監督
はじめは、2年前(2017年)の1月の終わりから2月の初めころだったと思います。
2018年も撮影しています。36回というのは、年をまたいでの回数です。
– 3時間の打ち合わせが3回とか、1年が365日ということからして、いずれにせよ、36回の密着ってすごいですよね。
佐藤監督
3時間の打ち合わせっていうのが、まず、新宿の珈琲西武での初めての打合せでした。
カメラは回していなかったんですけど、そこで、タイガーさんは3時間ずーっとしゃべり続けていました。
僕らも、まだ初めて会ったばかりだったので、どこで話を遮ってよいかわからなかったので、タイガーさんのなすがままでしたね。
– タイガーさんは、本当に、話が止まらない方なんですね。
佐藤監督
はい、止まらないです。
– 映画の中でインタビューされている方の一人が、「タイガーさんとの付き合い始めの3年間は、何言っているか本当にわからなかった。」と語っていましたが、監督はいかがでしたか?
佐藤監督
わからなかったですね。
普通、体験したことを人に伝えるためには、いろんな情報を伝えなければいけないじゃないですか。
タイガーさんは、自分の身に起きた自分の目で見えることだけを自分の主観でどんどんしゃべってくるんです。
なにかを説明しようとは考えずに、自分の思いと言いたいことだけをしゃべってくる感じです。
– 確かに、映画の中でも「頭の中にある映像をそのまま表現している」姿が見受けられますね。
佐藤監督
タイガーさん自身の頭の中でイメージができあがっているんでしょうね。
だから、自分の中で理解できているから、パッパ、パッパとしゃべってくる感じ。
– タイガーさんはおそらく、頭の中の映像で思考するタイプなんでしょうね。話す内容に説明がないから、聴く方はわからない状態に陥るという(苦笑)
佐藤監督
それに、36回取材にきたとか、3時間が3回だとか、数字にも強いこだわりがありますね。
そういう面をみていると、天才数学者なのかなとも思ってしまいました。
4.タイガーさんの名言と映画の構成
– 映画の中で、タイガーさんの口から様々な名言がでてきましたが、ご自身のオリジナルなんでしょうか?
佐藤監督
結構、映画の中からとったように見えますよね。
– そうですね。数多くの映画をご覧になられている。にわかファンではないというのがわかりますよね。
タイガーさんが求め続けているものとして、「シネマと美女と夢とロマン」という言葉がでてきていますが、映画の構成も、この言葉をなぞっていると思うのですが、この点はいかがですか?
佐藤監督
はい。構成的には、「シネマ」と「美女」と「ロマン」の3つで構成しています。
タイガーさんは、「シネマ」と「酒」と「美女」と「夢」と「ロマン」って5つあるんですけど、「酒」は除いて、「夢」と「ロマン」はひとつのものとして構成を考えました。
タイガーさんが、なぜ、愛と平和をうったえているのかを明かしていくところからが“ロマン”で、そのあとのブロック、たとえば久保新二さんの会話とか、お祭りのシーンのあたりは、3つの構成以外が含まれています。
– 膨大なインタビューデータからの編集は、本当に大変だったのではないですか?どこをピックアップするか、また、それを探すことさえ難しいのではと感じました。
佐藤監督
編集は、大変でしたね。
サブタイトルで出ていくるのは、シネマと美女とロマンなんですけど、構成上のキーポイントが4つくらいありました。
タイガーさんの今後とか。その大きな構成をまずつくりました。
大きな方向性が見えてくると、どういう会話を拾っていけばよいかわかってくるので、その会話を拾っていく感じでしたね。
ただ、あんなこと言っていたな…と思っても、どこにあるのかは覚えていないので、それを探すためにずっと聴いていくのは苦痛でしたね(笑)
5.タイガーさんの処世術?
– タイガーさんの“ほめ殺し”的な言葉。聴いている側が気持ちよくなってしまうような言葉。これらは、常に発せられているものなのでしょうか?
佐藤監督
特に女性に対しては、常に発せられていますね。
本当に心からそう思って話しているので、すごいなと思いますね。
– サービス精神というよりは、本当に、その相手の女性が好きなんですね。
佐藤監督
そうですね、好きですね。
それはそれでタイガーさんが、いまのスタイルを選んでいるのかもしれないと思ったりもします。
あまり深入りせずに、夢とロマンに生きるのであれば、“恋”の状態で、生きたほうがのちのドロドロした展開とかせずに、死ぬまで恋をして生きるっていう。
– 確かに、そういう風にも受け取れますね。相手の女性もタイガーさんの言葉を真に受けるかっていうと、そうでもない気がしますね。真剣にとられても困るから、恥ずかしさも含めて、歯が浮くようなセリフを選んでいるのかもしれませんね。
6.タイガーさんの口ぐせ
– タイガーさんの口から発せられる“ラブ&ピース”とか、“ゴーイングマイウェイ”とか“シネマと美女と酒と夢とロマン”とか、ほかにも口ぐせはありますか?
佐藤監督
「ありえない、ありえない」とか。
ポスターになっている「Don’t you know」とか。
「never」「ever」とか。単語的なのはいいますね。
あとは、そんなにないかもしれませんね。
「シネマ」とか「美女」、「ラブ&ピース」
あとは、高倉健さんの生き方をしたいとか。
先生はスーパーマンと、ブルース・リーとか。
好きな女優は、オードリー・ヘップバーンとマリリン・モンローと、エリザベス・テーラーとか。
7.タイガーさんの夢
– タイガーさんの夢ってなんだと思いますか?
佐藤監督
タイガーさんはラブ&ピースとよく言いますが、あの格好をして普通に過ごすっていうことが、タイガーさんのやりたいことであって、その解釈は私たちに委ねられていると思います。
– タイガーさんに行動を共にするご友人とかいらっしゃるんですか?
佐藤監督
あぁ、行動は共にしない感じですね。
いつもだいたい、ひとりで飲んでる。
昔の友人はいますよね。
やはり、あの年代に生きた人。
タイガーさん自身は学生運動の方にはいかずに任侠の世界というか、高倉健みたいな人生を選んだっていうことを言ってますけどね。
– 語り継ぐ人が現れるといいですね。
佐藤監督
確かにあの格好をしてタイガーさんのようにふるまうのは難しいですけど、心意気のようなものは受け継いでいきたいというのは、僕自身にもありますね。
– 映画の中に、震災ボランティアや演劇関係者を励ますシーンが描かれていて、続けていく、守っていくテーマを感じました。
8.映画『新宿タイガー』の紹介
佐藤監督
若い方に観ていただきたいです。
若いといっても、40代を含めたひとたちにも、もちろん20代のひとたちにも観てもらいたいです。
新宿がどんな街であったとか。どういう風に成り立ってきたのか。
僕たちの世代も、団塊の世代との接点がなくて、結構、断絶されているなと感じるので、つなげることやいろいろ知っていくことができるといいなと思いますね。
– 幅広い世代に観てもらいたい感じがしますね。それこそ、タイガーさんと同じ世代の方にもみてもらいたいですね。それによって、世代を越えた会話がなされて、つながっていくといいですね。
[聞き手:Ichigen Kaneda]
映画『新宿タイガー』
STORY
東京のエンターテインメントをリードする街・新宿。
1960年代から1970年代にかけ、新宿は社会運動の中心だった。
2018年、この街には“新宿タイガー“と呼ばれる年配の男性がいる。彼はいつも虎のお面を被り、ド派手な格好をし、毎日新宿中を歩いている。
彼は、彼が24歳だった1972年に、死ぬまでこの格好でタイガーとして生きることを決意した。1972年当時、何が彼をそう決意させたのか?
彼が働く新聞販売店や、1998年のオープン時と2012年のリニューアル時のポスターにタイガーを起用したTOWER RECORDS新宿店の関係者、ゴールデン街の店主たちなど、様々な人へのインタビューを通じ、虎のお面の裏に隠された彼の意図と、一つのことを貫き通すことの素晴らしさ、そして新宿の街が担ってきた重要な役割に迫る。
出演者
新宿タイガー
寺島しのぶ(ナレーション)
八嶋智人 渋川清彦 睡蓮みどり 井口昇 久保新二 石川ゆうや 里見瑤子
宮下今日子 外波山文明 速水今日子 しのはら実加 田代葉子 大上こうじ、他
スタッフ
監督・撮影・編集:佐藤慶紀
企画:小林良二 プロデューサー:塩月隆史 撮影:喜多村朋充 写真:須藤明子
音楽:LANTAN 制作:Aerial Films 配給:渋谷プロダクション
製作:「新宿タイガー」の映画を作る会
©「新宿タイガー」の映画を作る会
公式サイト:http://shinjuku-tiger.com/
公式Twitter:@shinjuku_tiger1 公式facebook:@shinjukutiger
3/22(金)~テアトル新宿にてレイトショー公開他全国順次
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。