【中村佑介インタビュー】“自由に描く”ことは“責任”も伴う~「中村佑介展 ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA」
- 2018年4月20日(金)~5月21日(月)の期間、池袋パルコ 本館M2F 特設会場にて、ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、小説『謎解きはディナーのあとで』『夜は短し歩けよ乙女』などの書籍カバーを手がける人気イラストレーター「中村佑介」の展覧会「中村佑介展 ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA」が開催されている。
展覧会開催に合わせて、中村佑介さんに創作のことについてたっぷりとお話を伺ってきた。そのロングインタビューと共に、展覧会の内容も一部お届け!(フォトギャラリー)
本展は、約2万7千人の動員を記録した昨年7月に大阪で開催された「中村佑介」の活動15周年を記念した展覧会「中村佑介展」を、一部最新の作品などを追加し、内容をブラッシュアップした巡回展として開催。
学生時代を含めて「中村佑介」がこれまで携わってきた仕事のほぼすべてが一堂に会する大規模な展覧会で、一部、最新の仕事(作品)も追加された最新版となる。完成イラストはもちろん、着色前の線画やアイデアスケッチなど約150点を公開。
さらに会期中には、サイン会やトークショーも実施するほか、オリジナルグッズも販売される。
中村佑介さんいわく、展覧会の構成は、
・学生の頃の白黒でより漫画的な表現時代
・プロになって、幾何形体・デザイン的な絵になった時代
・なるべく整頓しない線を描いて、色がはっきりしてきた今の画風
の3段階に大きく分かれていて、これら画風の変遷について中村佑介さんは、「より多くの人に僕の絵を見てもらうための目的と、女の子が実在感を持ってそこにいるように見えるっていう目的の2つが重なってだんだん変わってきた。」という。
「中村佑介展 ALL AROUND YUSUKE NAKAMURA」
会場:池袋パルコ本館M2F 特設会場 東京都豊島区南池袋1-28-2
期間:2018年4月20日(金)~5月21日(月) 10:00~21:00
※最終日は18:00閉場/ 入場は閉場の30分前まで
入場料:一般800円/学生500円/小学生以下無料
主催:株式会社Juice
企画制作:中村佑介展実行員会
協力:株式会社飛鳥新社/大阪芸術大学/パルコ
展覧会公式サイト: http://www.parco-art.com
中村佑介ロングインタビュー
“中村佑介”が描くことの必然性
– 中村さんが、仕事の依頼を断られる時はどういう時ですか?
中村佑介
受けない仕事は、この絵を使ったら売れるとだけ聞きつけてきて、僕の絵を使うことの必然性が見えてない人が担当な場合。
そういう時は、商品になるとチグハグ感が出てしまい、それは消費者にもなんとなく伝わっていっちゃうんですよ。
そういう、自分の人気に自分が便乗するような仕事の受け方をすると、イラストレーターとして長続きしない。いつか淘汰されてしまうと思っています。
僕はイラストレーターとしてどれだけ長生きできるのかっていうのを自分で確認してみたいんですよ。だからそういうのはなるべく受けないようにしています。
だいたいそういう匂いがする仕事は、中村佑介の“佑”の字が間違っているんですよ(笑)
だから、字が間違えている時点で、当たり障りのないスケジュールの都合でとか言ってお断りするっていうのがあります(笑)
依頼される時はおまかせ
– イラストを具体化するにあたって、クライアントとはどういうやりとりのプロセスがありますか?
中村佑介
アルバムジャケットにしても本の表紙にしても、クライアントからイメージを最初に提出されたことがないですね。
もちろんこっちは聞くんですけど、とにかくおまかせって感じですね。
音楽だったら音楽を聞いたままイメージして描いてくださいっていう依頼をされます。
“自由に描く”ことは“責任”も伴う
中村佑介
イラストを描く人って、商業になったら好きなことができないから趣味で続けていく人っていっぱいいると思います。
僕もプロのイラストレーターになったら、自分の描きたいものが描けなくなるのかなぁと思ったんですけども、今、好きにできてる。
だけれども、イラストのイメージが(商品に占めるインパクトは)けっこう大きいので、たとえば本の表紙に使われて売れなかったら、僕が売れなかったみたいな感じになっちゃうわけですよ。その本がおもしろくなかっただけなのに(笑)
その意味で、僕の責任で売上を伸ばさなければならないっていう意味でもあるんですよ。自由に描けるっていうのは。
だから出版社の人やレコード会社の人がたとえ要望出してきたとしても、実はそれ以上に考えないといけない。ほんとは。
結局自分の中で司令を出しているって感じなので。
クライアントからの要望は無いんですけど、ただ無邪気に好きに描くってこともないですね。
このアーティストだと、僕が消費者だったらどういう(ジャケットデザイン)だったらレジに持って行きたいかなみたいな。
少ないお小遣いだった中学生だった頃、でもほしいものがいっぱいあるような当時の自分を想像して、どうやったら(買う)気にならせることができるのかという視点で考えます。
言い換えると、お小遣いが少なかった中学生の自分が常に今の自分の頭の中の司令席に座っていて、40歳のボクにこういう風に描けって命令を出してきて、ボクは働らかされているっていうイメージです。
僕は指輪のケースを作っている
– 以前のインタビューで「イラストっていうものは商品が良く売れるためのブースターみたいなもの」とおっしゃってましたが。
中村佑介
はい。イラストのアイディアの発想の基点は“消費者”ですね。
例えば、指輪のケースを出されたら、女の人は「指輪だ」って思いますよね。
でも中身はわからない。でもなんだか高級そうだなっていう感じはある。中身はなんとなくわかるんだけど、フタをパカッと開けるまではわからないし、開けた時が本番じゃないですか。
僕はそのケースを作っている人なんで。指輪を作っている人じゃないんですよ。指輪は本であったりCDの音楽であったりとかするので。
中身だけ存在していればいいんだったら、商品の本質が指輪だけでいいんだとしたら、みんな指輪をハダカで渡せばいいだけじゃないですか。でもそうじゃないですよね。
僕はそういう感覚だから、(消費者に中身を)気にさせる方法を考えます。
その本のなんとなくの内容はわかるんだけど、これどんな話なの?っていうような絵にするための部分をいちばんよく考えますね。
説明が7割、気にさせる謎の部分が3割。
CDジャケットならば、その音楽をめちゃめちゃ聴き込んで、それを説明する部分が7割、のりしろみたいな部分を3割残しておいて、このジャケットだったらどういう音楽が入っているんだろうって思わせることで、ようやくジャケットで売上が伸びるとか、手にとってもらえる機会が増えるとかがあるんですよ。
それはモチーフであったりとか、構図であったりとか、色であったりとか。
女性が描けない
– 女性をモチーフにされているのは、学生の頃、ゲーム会社への就職を考えてた時に、女性のイラストを描こうとして、でも女性が描けないことがきっかけだったと伺ってるんですが、その後も?
中村佑介
描けないですね。ぜんぜん。今でも。
これは2014年に描いた絵(下の写真)なんですけど、ぜんぜん違う!
この女の子とは、中学生の時の僕は付き合いたいと思わない。単にキレイな絵だなとだけ思っている。
たとえば僕がすごく影響を受けた、林静一さんの小梅ちゃんってありますが、あれはロッテの「小梅」って商品で「ちゃん」はついてないんですよ。
「ちゃん」を付けている時点で、頭の中でそれが人間だと半分錯覚して、キャラクターとして動いてしまっているということなんですよね。
その域まで(2014年時点の僕の絵は)達していないので。
だから、うまいし、キレイだし、可愛い“イラスト”ではあるんだけど、可愛い“女の子”ではないなって感じ。
キティちゃんもそうです。あれ正確には「ハローキティ」ですよ。キティちゃんって愛称で呼んでいる時点でそれを半分生物と頭の中で錯覚させられているっていうか、キャラクター性がついてしまっている。
でも、キティちゃんって無表情なんですよ。キティちゃんは泣いたことも笑ったこともないんですよ。
だからそういうのを表現する域には、僕はぜんぜん達していない。
もっと人をおかしくさせたい
中村佑介
もっと人をおかしくさせるくらいの域まで行きたいんですよね。
成年漫画を中学生の時に読むじゃないですか。あれっておかしくなっているじゃないですか。おっさんが描いた絵に欲情して。
僕は、欲情する絵を描きたいとは思ってないですけど、例えば素敵だなぁとか切ないなぁとかなんでもいいんですけど、もっと本能的で感情的なところに響く絵になっていきたい。
まだその次元まではぜんぜん行けてないです。もし行けてたら、中学生がスマホゲームの課金をやめて、僕の画集を買っているはずなんですよ。僕は、成年漫画を買ってましたから。少ないお小遣いの中で。
まずは広告としての絵というところまではできたんですけど、それ以上の、次のステップっていうか。
でもどうせ描くんだったらそれがあったって、広告のジャマにはならないですから。
できていないことがあった方が、自分が生きていても楽しいですね。
日々の仕事がルーチンにならずに、自分ができていないところをどんどん見つけられることが。
女性を描くことの理由
– 話は戻りますが、描けない女性をずっと描き続けるのはなぜでしょう?別のものは描かないんですか?
中村佑介
別のものを描いたとしても、描けてないってことがわかんないんですよ。興味が無いから。
僕自身が女の人にしか興味が無いので、生きてて。
みんなもそうだと思うんですよね。犬が好き、猫が好き、とか言ってるけど、いや男の方が好きだろみたいな(笑)
みんな、趣味は音楽鑑賞とか言うけど、おまえ、エロビデオの方が見てんじゃないかってみたいなことですよ。僕から言わしたら。
だからそういう意味で僕は女の人にいちばん興味があるってことは、一番自分の中で差分がわかりやすいんです。あ、描けなかったなって。
もちろん動物も好きだし、花も好きだし、電化製品も好きですけれども、これらはそこまでの熱意をもって興味をもってないので、あ、描けたなって思っているんですよ。
(先程の2014年のイラストを指さして)あ、チンパンジー、めちゃくちゃ上手く描けてる。だって緑にしてもチンパンジーに見えるってめっちゃうまいやんって思うんですよ。緑のチンパンジーっていないですからね。っていうことはフォルムがうまく描けてるってことですよね。
でも、この女の子は同じようなクオリティで描けているのに描けてないって思うんですよね。あとは、描けなかったことがおもしろいんでしょうね。
中村佑介
昔は、フォルムだけ追っかけてたから、おっぱい出してミニスカートはかせるみたいな。そういうのが女の子のキャラクターだと思っていたんですけども。
(と、2014年に描いた自身のイラストを見ながら)そうですね。描けないですねぇ。ほんとにもう下手!わかってない!この時は。
毎作ごとに進化を感じている
– 過去の作品と比べて今の作品は進化していると思いますか?
中村佑介
思いますね。毎作品ごとに思います。
昨日ちょうど締切明けで仕上がった絵がいちばんいい。もちろん、それが世の中にどう受け入れられるかは100%の予想はできないですけども。
自分の中の女の人のイメージでいえば、この子、自分が見ても生々しく描けてんなって、生きている感じに、血が通っている人間に見えてきたなっていう感じが一番新しい作品にいつも持っています。
それだけを目的に頑張っているようなところがあります。もちろん、ギャラも好きですけど(笑)
常に進化を目指しながら、作品を描き続ける中村佑介氏。「自由に描くことは責任も伴う」。彼のその言葉が印象的だった。
下の写真は「中村佑介の新作」展示より。過去作品からの変遷を是非、実際に展覧会で見て体感してほしい。
初日は三四郎ゲストのトークショーも
展覧会初日の4月20日は、お笑い好きでもある中村佑介さんが高く評価する漫才コンビ「三四郎」の二人を招いたトークショーも行われた。
中村さんが聞き手となって、三四郎の二人を掘り下げていった。
中村佑介
三四郎さんの漫才ネタに驚きを感じて好きになりました。相田さんがひたすらボケ続けているのに、小宮さんがボキャブラリー豊富につっこむのって、スゲエと思いました。この人達がテレビで受け入れられるようになるのはいつなんだろうとか思いつつ。
前歯折ってほんとに良かったですよね。それも戦略だったんですか?(笑)
小宮浩信(三四郎)
そんなわけないじゃないですか。その日は絶望だったんですから!
中村佑介
「三四郎のオールナイトニッポン0」(ニッポン放送・ラジオ関西他)をずっと聞いていました。
その頃、アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』のキャラクタデザインする時に主人公の「先輩」(CV.星野源)がメガネかけてるキャラクタだから、普通にしちゃうとのび太くんみたいになってしまうので、いろんな顔のパターンを描いていった中で、小宮さんをモデルのパターンも描いたんです。
中村佑介
でも、歯が欠けてる設定がなかったので、結局このデザインはボツになったんだけど、Twitterで相田さんにこのことを伝えたら、それを知った小宮さんが、ラジオ番組で肖像権とかで怒って(笑)
小宮浩信(三四郎)
その時は深夜ラジオのノリで言ったままでで(汗)
中村佑介
その時のラジオは僕も聴いてて、じゃあ、これにどう対応しようかと考えた時に、本気で絵を描いて送りつけるっていう(笑)
だからこれ、無料ですからね。(と、そのイラストを画面に表示)
そしたら、これが番組ステッカーに採用していただいて。
なかなかリスナーのイラストがこうなるってのはないですよ。
小宮浩信(三四郎)
スタッフさん、ひいてましたからね。こんなことやっていただけるのかと。
中村佑介
LINE LIVEで見てましたらかね。ひいてる様子が伝わってきました(笑)
フォトギャラリー
[写真・記事・インタビュー:Jun.S]
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