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第33回高崎映画祭

【大林宣彦のメッセージ】余命三ヶ月・大林監督「あと30年映画を作る。それには理由がある」第33回高崎映画祭

第33回高崎映画祭

映画は未来を作る生きたジャーナリズム

2019年4月7日に幕を閉じた第33回高崎映画祭。3月24日、群馬音楽センターで行われた授賞式で、特別大賞を受賞した『花筐/HANAGATAMI』の大林宣彦監督は「映画は未来を作る生きたジャーナリズム。映画を愛し、育ててくれた高崎映画祭に参加できることを誇りに思う。」と、30分以上にわたって熱いメッセージを届けた。3年前にステージ4の肺がんで余命3ヶ月と宣告されながら、今も新作を作り続ける大林監督の「言葉」を特集する。(動画&フォトギャラリー)

第33回高崎映画祭 授賞式

大林宣彦監督/竹内公一美術監督

特別大賞を受賞したのは、『花筐/HANAGATAMI』の大林監督、スタッフ・キャスト一同ということで、3月24日の受賞式では、大林監督と、窪塚俊介、満島真之介、矢作穂香、山崎紘菜、細山田隆人らキャスト陣。
そして、大林監督の車椅子を押し、スタッフ代表としてトロフィーを受け取った美術監督・竹内公一氏、ヘアメイク・和栗千江子氏。

満島真之介は「僕は沖縄出身で、アメリカ人の孫で、戦争がなければ生まれなかったんです。姉(満島ひかり)もそうですが、いろんな思いの中で映画という世界に入っていって、大林監督に出会いました。そして“青春が戦争の消耗品なんてまっぴらだ”というこの作品の大切な言葉を残せたことと、今日こうしてまた監督、キャスト、スタッフの皆さんといられるというのがすごく嬉しく思います。」と、途中、感極まって、言葉を詰まらせながら受賞の喜びを語った。

第33回高崎映画祭

窪塚俊介/満島真之介

本作のロケ地となった佐賀県唐津市の唐津映画製作推進委員会の当時事務局長だった甲斐田晴子氏は、「『花筐』の台本をいただいた時、あまりもの畏怖の念にさいなまれてしまい、半年くらいお返事ができませんでしたが、これは絶対にやらなければならないという気持ちになり、スタートさせました。」と当時を振り返った。
それは、単なる「ロケツーリズム」という言葉だけでは済まない大きなテーマが『花筐』にあるからだ。
本作の撮影が実際に唐津の街で行われ始めると、旧態依然としていた行政の風通しがよくなる効果がでるなど、唐津の人々は一体となったという。そしてなにより、唐津の人々自身が当たり前すぎて気づかなかった唐津の魅力を、この『花筐』が教えてくれたとも明かした。

なお、大林監督は現在も新作を製作中で、稲垣吾郎出演で話題となっている『海辺の映画館―キネマの玉手箱―(仮題)』(2019年秋公開予定)や、『つばき、時跳び』(2019年撮影予定)などが公開を控えている。

第33回高崎映画祭 授賞式

矢作穂香

第33回高崎映画祭 授賞式

山崎紘菜

大林宣彦監督 授賞式での“魂のことば”

81歳にして、3年前にステージ4の肺がん、余命三ヶ月と宣告された大林監督。
授賞式は車椅子で登場し、「座ったままトロフィーを受け取るのは申し訳ない。キャスト・スタッフ皆で受賞したので、スタッフに受け取っていただく」と、車椅子を押してきた、美術監督の竹内公一氏がトロフィーを授与された。
そして、それから30分にわたって、大林監督は、“魂のことば”と言えるような、パワフルで、熱いメッセージを客席に向かって語り続けた。
途中、客席にいたプロデューサーで監督の妻でもある、大林恭子氏を「今日も綺麗だよ」と紹介する一幕もあった。
それでは、大林監督のメッセージを次から紹介する。
※大林監督のメッセージは動画ではノーカットでご覧いただけます。

第33回高崎映画祭 授賞式

集まることがひとつの平和づくりの輪になり人になる

大林監督
33年継続することがほんとに歴史を作ります。33年でいかに映画界が変わったか。
33年前は8mmや35mmで作った自主映画はどこの興行会社も相手にしてくれませんでした。でも今日、瀬々監督のような超プライベートだけど素晴らしい作品が監督賞を受賞された。
高崎映画祭はメジャーないわゆる商業映画が1本もなくて、すべて個人主義の作品であると。
そしてその個人が集まって1つの作品を作り、集まることがひとつの平和づくりの輪になり、映画人を超えた素晴らしい人になっていく。そういう人こそ大切であるとわかってきたことはとても嬉しいことです。

第33回高崎映画祭 授賞式

大林宣彦監督

“映画”は未来を平和にするためのジャーナリズム

大林監督
映画は生きたジャーナリズムであります。過去の情報を集めてまとめるジャーナリズムを超えて、(映画は平和な)未来を作る情報です。
そういうことがここ(高崎)では見える。33年の歴史を持つ高崎映画祭は、優れた、生きた未来を作るジャーナリズムである。

映画は皆さんが観てくれて初めて“映画”になる

『花筐/HANAGATAMI』のDVD・Blu-ray発売について

大林監督
私たちの映画は観ようとしてもなかなか観られないんです。まだまだ映画の興行界はお金儲けが主体になりますからね。
こんな金にならないような映画はなかなか上映してくれない。
でも、人々が観てくださらないと。映画が映画になるのは皆さんが観てくださって「いい映画を観たなぁ」と思ってくださる時に、初めて映画になるわけです。そういうチャンスを増やすためにもこういうDVDは大切なんです。

大林組の決まりごと。“その人の顔を撮りたい”

大林監督
うちの現場はひとつだけ昔から決まっていることがあって、俳優さんはどんな子どもに至るまで、1人で(現場に)来ます。平たく言うと、マネージャーさん抜きで来ます。
マネージャーさんがいると、いい意味で商品ですからどうしても商品としての顔になっちゃうんですけど、単身で預かると、その人の顔でしかない。その顔を撮りたいんです。

第33回高崎映画祭 授賞式

唐津の人々が私に映画を作らせた

唐津映画製作推進委員会・甲斐田晴子氏の言葉を受けて。

大林監督
ひとこと大事なことを補足します。私が唐津で映画を撮ったのではなく、唐津の人々が私に映画を作らせたのです。
40年前に拒否された『花筐』。40年かかってようやくできたというのはね、嬉しいと同時にそれだけ世の中が切羽詰まってきたんだなということをもう一度考えてみなきゃいけないなと思っています。

第33回高崎映画祭 授賞式

古里映画が観光客を集める時代ではなくなった

大林監督
僕は全国のいろんなところで、古里(ふるさと)映画を作っているんですが、古里映画を作ることが唐津にとってどういうことであったか。
唐津の人々は、「この映画は観光行政を超えて、今、日本人が、いやいや世界の“人”が作るべき映画です。やりましょう。」と言ってくれました。

これからもいろんな古里映画が作られるでしょうが、この映画を撮ったら観光客が集まるぞという話ではない時代になりました。
古里のフィロソフィーをこそ、平和を願うフィロソフィーを伝えるということこそが本当の古里映画になるという、そのきっかけを作ってくれたのが、唐津の唐津映画製作推進委員会の皆さんです。

あと30年、映画を作る理由。

大林監督
私は、ステージ4の肺がんで余命3ヶ月のまま、もう3年を迎えましたが、あと30年、映画を作るつもりでいます。
それは理由があります。
私たちが知っている過去の戦争と、そして新しい戦前派が生まれて歴史が繋がったっていうことです。
だから、未来の戦争のない世の中を作るために、過去の最大の間違いである戦争のことを記憶している私たちの世代が、どんな理屈があっても戦争は嫌だ、餓死しても戦争は嫌だと、言いたいと思っています。

大林監督
映画人というのは、眼の前にあるものは全部受け入れるんです。ガンも受け入れましたよ。(胸を指差して)ここにガンが棲み着いていたら仲間ですよ。
「私が宿主で、お前(ガン)は宿子なんだから、お前がわがまま放題やって宿主の俺が死んだら、バカだなお前も死ぬんだぞ。だからお前も俺のことを思って多少ガマンしてくれたり、労ってくれればあと30年、40年、お前と一緒に暮らしていけるからな。」と諭しているうちに、ふと気が付きました。

大事なことです。

「私自身が、この宇宙におけるガン細胞ではなかったか?」

私自身が宇宙のことを考えて、ガマンすべきことはガマンする。自然環境に優しい生活をする。
そういうことをね、一人一人が少しずつ心がけていけば、未来はきっと素晴らしい地球、人になります。

高崎への感謝

ここ、高崎は、何よりも私たちの映画を育ててくださっている映画を愛する人たちの場所です。
今日は、尊敬する33回目の高崎映画祭に参加をさせていただいた老人としての私も未来のために、ここにいることを誇りとさせていただきます。
心から御礼申し上げます。ありがとうございました。

第33回高崎映画祭 授賞式

『花筐/HANAGATAMI』受賞式&大林監督のメッセージはノーカット版の動画でもどうぞ!

YouTube player

第33回高崎映画祭

第33回高崎映画祭は、2017年11月から2018年11月末までに国内で劇場公開された邦画作品から、高崎映画祭選定委員会が選出したもの。特別大賞に『花筐/HANAGATAMI』、最優秀作品賞に『斬、』。
開催期間:2019年3月23日(土)~4月7日(日)
会場:高崎市文化会館/高崎シティギャラリー/高崎電気館/シネマテークたかさき
公式サイト:http://takasakifilmfes.jp/

特別大賞:『花筐/HANAGATAMI』 大林宣彦監督 スタッフ・キャスト一同

受賞理由
映画は時に人生を凌駕する。イマジネーションはどこまでも自由であり、それを表現する映画もまた自由であることを、この映画は教えてくれる。
檀一雄の小説『花筐』を原作に、一人の映画作家は戦争の記憶を紡ぎ出す。
残酷な現実が次々と襲う中で、若者たちは生への渇望をむき出しにする。
かつての時代を生きた若者たちの生命の輝きは眩く、重厚だ。
「戦争に殺されるくらいならば!」彼らの意志の強さは色彩となり、空間芸術となって映画の中に立ち現れる。
映画の醍醐味を存分に活かしたダイナミックな世界観と、ジャーナリズムに溢れた作家性に感嘆するばかりだ。
美しく壮大な古里映画に最大の賛辞を込めて特別大賞とする。

フォトギャラリー

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[写真:Ichigen Kaneda/動画・記事:Jun Sakurakoji]

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